少し不思議なプリンの話

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少し不思議なプリンの話

 そうして人類は永遠の眠りについた。  物語はそう締められるはずだった。  はず、だったのだが。 「地球ヲ、人類を守らネバ」  ―― それは決死の覚悟だった。    そんなナレーションが入りそうな、そんな表現がまさに相応しいかのような雰囲気を醸し出す、目の前にいるそいつ ――自称 地球外生命体―― に、「いやお前ぜったい違うだろ」と突っ込みをいれれば、地球外生命体がひとりの地球人、もとい人間の手の中のものを見て、目を輝かせる。 「キミ!そレはブツか!!」 「おー。お望みのビックプッチンだぞー」 「ツイに! 待っテイタぞ!」 「ついに、って、お前ビックプッチン知ったの数十分前じゃねぇか」 「ソウだ、けど、そウじゃ、ない」 「? どういうことだ?」 「知らナクテいいことも、世界ニハあるゾ!」 「あー。はいはい。そうっすか」  どやぁ、という表現が似合いそうな空気を醸し出す地球外生命体(ソレ)に、人間である彼はため息をついて、命綱ともいえるプリンを見せつける。  重ねたプリンは、手に2つ。  フォワぁァぁ! と謎の歓喜の声をあげ、表現でもなんでもなくリアルに目から星屑を飛ばしながら、自称 地球外生命体は、彼の周りを走り回る。 「まだまだあるから、約束まもれよー?」  約束。 「地球! 守ルゾ! 人類! オレ守ル!」  約束ダカラな!  そう言ったアイツの目が、彼の手の中のものしか捉えていないことに、彼はひとりため息を吐いた。 『人類防衛録 No.10001 より抜粋』 ◇◇◇◇◇◇◇  地球を侵略にきた、らしい、こいつと約束を交わしたのは、ほんの数十分前のこと。  買ってきたプリンを食べながら、SNSで見かけた太陽フレアの記事に、まさにイイね、を押した瞬間。  ガコンっ、と俺の家の庭の垣根に(正確にはじいちゃんの家)コイツは突っ込んできた。 「あ?」  自転車が突っ込んだんか?  そんな音だった気がして、庭先を見に行けば、垣根は確かに凹んでいるけれど、なにもいない。誰もいない。 「怪我は」  怪我はしてないのか。  キョロ、と周りを見ても、人も動物の影すらも見当たらなくて、まぁ、怪我してないならいいか、と縁側に向き直った瞬間、ソイツはいた。 「……なんだ、アレ」  人の形をした、人じゃないモノ。  まさにそれだった。  破れた服の下から見えるのは、人間の皮膚ではなくて、光沢のある不思議な色のもの。一色ではない。  所々に刺さっている葉は、たぶん垣根のものだろう。  その葉っぱが、つぷり、つぷり、と光沢に飲み込まれていくのが見える。   ヤバいやつかな、これ。いや、ヤバいやつだな、コレ。  直感的にそう思った。  けれど、それは同時に。 「あ!! てめっ!! 俺のプリン!!!!」  待ちに待って、やっとのこと今日届いたばかりのお取り寄せプリンに、伸ばされていた手に、危機感なんてものは、瞬殺され、全力の大声で叫ぶ。  その瞬間。  ビクウッッッと激しく身体を動かしたソレが、その場から飛んで消えた。  結果でいうと、プリンは無事だった。それは良かった。本当に、良かった。  2年待ったんだ。渡してたまるかこの野郎。  いや、まぁ、良かったけど、コレはどういう状況なのだろうか。  プリンを食べる俺を、垣根の向こうから、じい、とさっきのアレがずっと見ている。  ちらちらなんてものじゃなく、本当にずっと見ている。  初めの頃は、飛んでくる虫やら鳥やらに反応を示してもいたけれど、どうやら、違うらしい。  キラ、キラと光るように見える目には、恐怖の色なんてものはまるでなく、あの目は確実に、好奇心に満ちている目だ。  ―― プリンしか追っていない ――    丸わかりの視線に、変なヤベぇ奴、と認識しながら、最後の一口を口に含めば、「ぁ」と小さな音が聞こえる。 「あ?」  聞こえた音をそのまま呟けば、垣根の向こうのソレと、バチリと目が合う。  見つめ合うこと、数秒間。 ペショリ、と下がった耳と尻尾が見えてしまった気がした俺は、どうしてだか分からないけれど、「食うか?」などと声をかけてしまい ―― プリンがふたつ。ソレと俺の間に並ぶ。 「―― !!」  食べ方もわからなさそうだったソレに、手本を見せるかのようにしてスプーンを持ち、プリンを口に含む。  そうして俺の真似をして、プリンを口らしきものに含んだ目の前のコイツは、目を大きく見開き、目から星屑を飛ばす。  表現じゃなくて、リアルに。 「なんか出たが?!!!」  キラッ、パラッ、と飛び出た星屑を気にすることもなく、もう一口、また一口、とプリンをバクバクと食べた。 「っていうか、それ口か……?」  なんかぬちゃぁって伸びてるけども。  地味にグロテスクなんだが。 「……っていうかコレは確実に……」  やっぱどう考えても地球外生命体ってやつだよなぁ、コイツ。  映画で見たぞ、こんなやつ。  そんなことを思い、これはー、どこに連絡すりゃあいいんかねぇ、などと考えていれば、カスッ、カツッ、とアルミ箔にスプーンがあたる音が聞こえてくる。 「もう食べたんか」  綺麗さっぱりに中身がなくなっているカップを不思議そうに眺めている地球外生命体(ソレ)に声をかければ、「◇△@xy◎.?/」とまぁ、いわゆる言葉が分からない。  そもそもこれ言葉か?  まあ、それはいい。 「……とりあえず、もう無いぞ。それ」  伝わるかどうかはしらん、とそのまま伝えれば、地球外生命体(ソレ)は、しばらく経ってから、「あ、あー」などと音を発したあと、カパッ、と口らしいものを作って開く。 「コれ、はナン、だ?」 「あ? ああ、それ、プリンっつーんだわ」 「ぷリン?」 「そ、プリン。うまいだろ?」 「ウ?」  ウま? い? プ、リん。 カタコトの日本語を発しながら、地球外生命体(ソレ)のあたりから、何か空気が揺れているように見える。  夏の日の蜃気楼みたいだな。  そんなことを思っていれば、空気の波が、自分にあたる。  あ、これ、読まれてる的なやつか?  拒否すんのはどうしたらいいんか。  そんなことを思うと同時に、「地球侵略」なんていう物騒な言葉が脳裏をよぎる。 「え、って、は?!」  地球侵略?!  そんな言葉に、バッ、と立ち上がって地球外生命体(ソレ)を見れば、目と思われるところの色が、赤紫になっている。 「……こいつ……!!」  プリン食われたうえに殺されるとか有りぇねぇし!!  たぶん、誰かに知られたら後世まで言われるくらい、斜め上にぶっ飛んだ心の中の声で、地球外生命体(ソレ)の動きが止まるだなんて思ねぇだろ。  いや、普通は誰も思わないだろ。自分だって思わねぇわ。 「プリン!!」  あ、滑らかに発音した。  俺の思考を読んだ地球外生命体(ソレ)の叫び声を、たぶん俺は一生忘れない気がする。 「っつーか掲げんな、食えよ」 「食べタラなくナルだろ!」 「食わねぇで腐らすな職人に失礼だろうが」 「ココに入れレバ、いいダロ?」 「あ?」  そう言って、目の前の奴が置いてあった箱の中から、また小さな箱を取り出す。 「なんだそれ」 「知ラないノカ? アー、確認スる。すこシ待テ」 「?」  空中に浮かび上がった画面だと思われるものを超スピードで操作する目の前のコイツは無視して、食べよう。  そう決意して、プッチンプリンをプッチンすべく、ビニールの蓋をあけ、上部に皿を押し付ける。  あとはひっくりかえして、プッチンするだけ ――  華麗な手のひらクルーをお見舞いしてやんぜ!  そんなよく分からないテンションの中、手首を捻った瞬間。 「マジックボックスとイうヤツだ!」  奴の声が、部屋に響き渡る。 「……」  ―― やっちまったな ――  謎のイケおじボイスが、脳内で俺にそう語りかけた。 「プッチン?」 「これを、こうするんだよ」  怒りの拳骨を一発お見舞いしたものの、奴の身体は思った以上に柔らかく、どうやら痛みもそんなに感じることはないらしい。  見た目はもちろんのこと、やっぱりとことん人じゃねぇなコイツ……などと思っていたのも束の間。  2個目のプリンと皿をドッキングしていた俺の行動に、目の前のコイツは「何シテるんダ?」と首を傾げる。 「プッチンするんだよ。プッチン。知らないのか?」 「???」  ぐにゃん、と身体を斜めによじりながら、本日2度目のプッチンを見せつける。 「ほら見ろ!」  どうだ! 日本の菓子メーカーの底力!!  自分の功績などひとつもないけれど、地球外生命体(ソレ)に謎の自慢を繰り広げれば、地球外生命体(ソレ)の目からまた星が落ちる。 「なンだ!! そレハ!!」 「だからプッチンプリンだっつってんだろうが」 「……プリん、奥ブかイ……」 「ったりめーだろ。この世界にプリン作れる洋菓子職人何千何万人いると思ってんだよ」 「何ニんダ?!」 「いや知らねぇし!!」  ガバッ、と顔をあげた地球外生命体(ソレ)の目は、青とも緑ともいえない色をしている。  どうやら、楽しいらしい。  そんなことをこの数時間で学んだ俺は、心の中で全力でプリン職人の皆さんと、日本の菓子メーカーの皆さんに感謝を述べる。  ―― あなたがたのおかけで、俺はまだ無事です ―― 「いや、フラグかよ」  自分で思いついたコメントに、自分でツッコミをいれながら、隣を見やる。  プッチンしたプリンをふるふると揺らす地球外生命体(ソレ)の目は楽しそうだ。  わかる。揺らしたくなるよなぁ。  激しく同意、と数度、頷いてから、カラメルの部分にスプーンを差し込む。  有名高級洋菓子店のプリンも、下町風情あふれる昔ながらのプリンも、もちろん美味い。  カフェで食べるプリンも、レストランで食べるプリンもうまいし、まだまだ食べていないプリンもこの世には星の数ほどにあるだろう。 「でも、これもやっぱり美味いんだよなぁ!」  安定の美味しさ。ホッとしちゃう美味しさ。  ありきたりな感想しか出てこない自分の語彙力に申し訳なくなるけれど、プリンの美味さは地球外生命体にも通用する。 「プリンすごい」 「プリんはスゴい!」  いつの間にか、残り一口分くらいまで食べ終わっていた地球外生命体(ソレ)に、「こいつ、プリン色になったりするんかな」なんてついぼんやり考える。 「なァ、ニンげん」 「なんだよ」 「ドうしたら、ボクタちも、プリん作レる?」 「どうしたら、ってレシピ検索してみたらイイじゃん?」 「製ゾウ方法は、調べタ」 「やったんかい。つか早いなオイ」 「ケど、ナカま、おなジように、ヨロこんでナイ」 「?」  仲間?  なんのことだ?  地球外生命体(ソレ)の発言に首を傾げれば、「共有ダ」と地球外生命体(ソレ)が言う。 「共有?」  感覚共有、みたいなもんか?  少ない宇宙映画知識と問いかければ、「ソレだナ」と地球外生命体が頷く。 「どうしたら、っつってもなぁ。地球でできたもので、地球の人間が作ってるから、美味いとか、そういうことじゃね? あ、でもプッチンは工場生産だしなぁ。やっぱ地球だから、ってのもあるんじゃん? 知らんけど」 「………………ふ厶」  俺の発言に、地球外生命体(ソレ)の目が、黄色に変わる。 「な」  なに、と俺が呟くと同時に、ヴォン、と低い微かな振動音とともに、地球外生命体(ソレ)が複数体、目の前に現れる。 「増え?!」  増えた?!  ビクッ、と大きく肩が揺れた俺を、地球外生命体(ソレ)たちがじいと見つめる。 「何ドメだ?」 「イマまでと違ウナ。%4&はドこだ」 「コレは、マサか。△※gk@ナノか?」  ブンブン、ざわざわ、と謎の音とともに、分かる言葉と分からない音が聞こえる。  何これ、どうすんのコレ。  地球外生命体だらけになった部屋の壁に追い込まれて、最初にきた地球外生命体(ソレ)を見れば、地球外生命体(ソレ)の目が、灰色に近い青色になっている。  ……どういう感情だよ。  スンってなってんの? 何なの。  っていうか、表情も言葉も通じないって、詰んだのではコレ。  漏れてしまいそうな息を、必死にとどめ、地球外生命体たちのやり取りを背中に冷や汗を感じながら静観する。  これ、俺、死ぬんかなぁ。  ……まだ死にたくないなぁ。まだ食べたいものも、行きたいとこもあるしなぁ。  ぽつりぽつりと行きたかった場所、食べたいもの、みたいものが頭をよぎる。  ―― プリンもうまいけど、杏仁豆腐もババロアもいいよなあ  死ぬかもしれんのに、何を考えてるんだか。  ふと我にかえって自分の思考に苦笑いがこぼれる。  そんな自分の周囲でぎゃいぎゃい音をたてていた地球外生命体と最初の地球外生命体(ソレ)の間で、バチンッ、と何かが切れる音が響く。 「決裂ダな!!」 「は?! え?! なに?!」  ぎゅん、ともはや俺を引きづるようにしえ、地球外生命体(ソレ)が宙へと飛び出る。 「うっわ?! 飛ん、飛んでる?! 浮いてる?!」  ぬるりとした地球外生命体(ソレ)の手だか足だかが、俺の身体をガッチリと掴んでいる。 「一旦、ボクノ船ニモドる!」 「なんで俺まで?!」 「キミ、ひつヨウだ! カラ!」 「はァぁぁぁあ?!」  ひゅんっ、と音が聞こえた。  そう自覚した瞬間には、もうすでに、俺は見知らぬ場所にいて。  そこが宇宙船とやらなのだ、と否が応でも、視界いっぱいの空がそこが空中なのだ、と伝えてくる。 「いや、っていうかこれ、いわゆる成層圏じゃんんんん?!」  宇宙 見えてんじゃぁぁぁーん!!  誰にいうでもない盛大なツッコミを心のなかで叫ぶ。 「キミは、イツもソウなのか?」 「は?!」  にゅるん、と視界の端からあらわれた地球外生命体(ソレ)に、何故だか急に、すん、と落ち着きを取り戻し、「何が?」と問いかければ、「いつモ、さわガシイ」と地球外生命体(ソレ)の答えが返ってくる。  うっせえ。余計なお世話だわ。  そんなことを思えば、ふ厶、と地球外生命体(ソレ)が静かに頷く。 「トコろで、さっキのはなシだガ」 「んあ?」 「ババロ、アとはナンだ?」 「……そこかよ!!」  宇宙船に乗ってまで、地球の菓子の話をするとは思わないだろう。  誰だって。 「いや、つうか」  これ、全部、夢なんちゃう?  じゃなきゃ、人類が宇宙にやっと手を伸ばしはじめたこの時代に、一般人も一般人な俺が、地球外生命体と喋ってプリン食って宇宙船に乗るだなんて、有り得ないし。  グッ、と力をこめて、自分の頬を掴む。 「…………」 「ナグれば、いいノか?」 「止めろ、俺が死ぬ」  にゅにゅにゅにゅと伸ばしてきた腕と思わしきものを片手で押し返せば、「フむ」と地球外生命体(ソレ)が小さく呟く。 「キミ」 「んだよ」 「ナンドめだ?」 「あ?」  何がだよ。  そう返した俺に、地球外生命体(ソレ)がまた小さく「フむ?」と呟く。 「かワっ、タらしイな」 「かわった? なにが」  何の話だよ。  思わず眉間に力を込めながら言えば、「わか、ラナいのカ?」と問いかけられる。 「いやだから」  何のことだ。  答えにならない答えに、ほんの少しの苛つきを覚えた直後。  ぐねん、と地球外生命体(ソレ)の身体が大きくうねる。 「キミ」 「あ?」 「作ってミた。たベろ。プリン」 「っ?!」  ヴォン、という音とともに空中に現れた黄色に、ビクゥッと身体がはねる。 「ていうか、なんかさっきよりもスラスラ喋ってないか? ていうかプリン?! いや、プリンて?! これが?」  ただの四角い黄色じゃん。  プリンの影も形もないじゃん。  かろうじてあるの黄色だけじゃん?!  ぷかぷかと空中に浮かぶプリンらしきものを指差しながら地球外生命体(ソレ)を見れば、なんか少し皺々している気がする。 「おまえ……どしたん?」  なんか皺々してるが、と聞けば、ムムむ、と唸り声が聞こえる。 「……成分ハ同ジダ」  皺々になった地球外生命体(ソレ)の言葉に、恐る恐るプリンらしきものに触れれば、見ための通りに、表面が固い。 「……固くないか? これ」  プリン味のグミみたいなイメージか? これ。  そんなことを思いながらプリンらしきものを掴む。匂いはカラメルのかかったプリンの香りだ。  掴んだ感じは、むにむにしている。  なかなか口にしない俺を、皺を増やした地球外生命体(ソレ)がじいと見つめる。 「…………っ」  もう、どうにでもなれ。  あるはずの無い大型犬みたいな耳と尻尾が地球外生命体(ソレ)にまたついているように見えてしまって、意を決してプリンらしきものを口に放り込む。  ……。  …………。  黙り込んだ俺に、地球外生命体(ソレ)が「どうだ」と聞いてくる。 「……いろいろ違う。そもそもこの食感、謎なんだが」  焼きプリンの焼けたところで、全面を包み込み、中はゼラチンで固めたプリンが少し柔らかい、ような食感になっている。 「ある意味でこういうのがあってもいいとは思うけど、お前が食べたプリンとは全くの別物だろ。これ」  味は……まぁ、駄菓子屋で買えそうな味だな。 そう言って2つ目を口に入れる。 「成ブンは同ジノはズ」 「けど、お前も分かってるだろ? あのプリンの美味しさとはほど遠いやつだって」  ちらり、と足元に映る地球を見やる。  日本列島が、遠くに見えた。 「やっぱ、地球のもので、人間が作るからあの味なんだよ。別の星で、同じ材料で、同じように作ったとしても、たぶんきっと、あの感動を超えるものはないんじゃないか?」 「……感動……」 「掲げるほど、美味かったんだろ?」  俺の買ったプリンたち ――  そう地球外生命体(ソレ)に伝えれば、「……うむ」と地球外生命体(ソレ)が頷く。 「やハリ、皆ヲ、地球ノ侵略を止めネバ」 「は?」 「こノママでハ、1時間ゴに、ナカまが、人類ヲ滅ボす」 「……は??」  地球侵略って。  え、あれ、マジな話だったん?!  そう思った直後。 「プリンを絶やスワケにはいカナい!!」 「え、そんな理由で?!」  人類、プリンに救われるん?!  その言葉を、吐き出した瞬間。  強い力に全身を引っ張られ、急に止まる。 「ぐえっ」  蛙みたいな声が出た。  そう思うと同時に、見覚えのある景色が目の前にひろがる。 「あ」  帰ってきた。  そう言った俺に、「キミ!」と俺を呼ぶ声が聞こえる。 「あ?」 「プッチンプリンが、食べタイ!!」 「あ?」 「地球、守ル! ダカら、プッチンプリン、食べル!」 「…………」  驚きがすぎて。しょうもない理由すぎて。  くくっ、と笑いがこみ上げてくる。 「ナにが、オカシイ?」 「いや、別に。ただ、プリンで地球と人類守れるんだな、って思ったら笑いがな」  くっくっくっ、と溢れる笑い声に、地球外生命体(ソレ)が首を傾げる。 「プッチンはもう家にねぇから、買ってくる」 「なん、と!!」 「買ってきてやんだから、約束守れよ? お前も」  チャリ、と畳に置かれたままの自転車の鍵を手にとる。  近くのスーパーまでは、自転車で9分。  30分もあれば、往復もできる。 「ったく、変な日になったなぁ、もう」  ガシャン、とスタンドに足をかけて、鍵を解除して、自転車サドルにまたがる。  ズボンのポケットに入れたままの財布の中身を見やるものの、大丈夫。予算は潤沢だ。  ぎゅ、とハンドルを握る手に力をこめて、近所のスーパーにむけて、ペダルを漕ぎだす。 「プッチンプリン、あるかなぁ」 ◇◇◇◇◇◇◇  20☓☓年、○月☓日  地球外生命体による地球侵略、人類滅亡計画は、観察対象 No.☓☓☓☓☓と、彼に接触した地球外生命体によって、阻止されたのを目撃、人類時間軸および歴史改修を確認。  地球外生命体ら以外に、その事を知るものは、誰もいない。  タイムリープを成功させた我々 人類は、幾度となく、地球外生命体らからの地球侵略に抗い、ことごとく失敗しつ続け、都度、幾人もの同胞を失っていった。  『彼等』に注目し、10001回目に挑んだ今日。 我々は、ついに、我々の未来を手にすることが出来た。   ―― そうして人類は永遠の眠りについた。  そう締められるはずだった物語は、結末を変えたのだ ――  出来上がった報告書を確認しつつも、いまもまだ冷めやらぬ興奮と感動を、いつもより早い心拍が伝えてくる。 「それにしても隊長。プッチンプリンって、なんですか? 隊長は知ってます?」 「なんだお前、知らないのか?」  あれはだな ――  隊長と呼ばれた人物が口を開いた瞬間。  開いた部屋の入口から現れたソレに、そこにいた皆が雄叫びをあげたのは、言うまでもなく。 「あーーー!!」  計画を見届けた彼らは、ソレを食べられたのか ―― 「あー、プッチン、ここにも無いじゃん」  なんかバズったんか?  首を傾げる彼の横の空気が震える。 「……隊長?」 「ああ、いま行く」  通り過ぎた人影に、なんとなく、彼が振り返るものの、そこには今しがたすれ違った人はおらず。  居るのは、いつもと変わらないスーパーで買い物をする人たちばかりだ。 「……気のせいか?」  軍服みたいなの、着てたように見えた気がしたんだけど。  首を傾げ、そう呟いた彼に、ポケットのスマホが短く震える。 「あ、今日、ババロア届く日じゃん」  スマホを見ながらそう呟いた彼はもう、振り返ることは無かった。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ このお話は第2回日本SF作家クラブの小さな小説コンテストの共通文章から創作しております〜  https://www.pixiv.net/novel/contest/sanacon2 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
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