そして誰もいなくなった?

7/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 メールの着信音が聞こえた。ドクがジーパンのポケットからスマホを取り出す。暫くスマホの画面を見てから、ジーパンのポケットに戻して、 「僕はね、子どものころは友だちの輪の中に入れなかった。いつも一人ぼっちだった。大きくなってからも人付き合いが苦手だった。だから、孤独だったんだ」  ドクが言ったことは、僕にも分かる。僕も孤独だったから。 「けれど少し前、ある女性に出会ったんだ。その人はこんな僕にでも、好意を寄せてくれたんだ。僕も彼女のことが好きになった。いい人だよ。彼女はもう直ぐ、ここにやって来る。本当は、昨日来るはずだったんだけど、途中で大雨になったから、無理をしないように(ふもと)の駅前のビジネスホテルに泊まってもらったんだ」  彼女を紹介してくれるのか。ドクの彼女はどんな人なのだろうか。僕が気にならないと言えば噓になるだろう。  自動車のエンジン音が聞こえた。音が次第に大きくなる。 「彼女が来たようだね」ドクが言った。「ユウキ。お別れだ」  お別れ? それって、どういうことだ? ドクの言うことが、僕にはよく理解できないんだが。 「僕は孤独だった。友だちが欲しいと思った。そうすれば、友だちが現れた。ユウキ、君だ」ドクは僕を指差した。「君は友だちだ。でも、実体のある友だちじゃない。空想上の友だち、つまりイマジナリーフレンドというやつだ」 「僕が空想の存在だって? そんなこと……」 「でも、今の僕はもう孤独じゃない。一緒にいてくれるという人がいるんだ」  エンジンが止まる音がした。  玄関ドアが開く音が聞こえた。 「だから、君は消えてもいいんだよ」  食堂のドアノブが回る。僕はドアに目を向ける。ドアが開く。  そのとき、僕の意識は消えた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!