そして誰もいなくなった?

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 昨日、僕たちはドクの運転する車でこの別荘にやって来た。僕たちとは、ユウキ(僕のこと)、リョウ、マサ、キリリ、ドクといった仲間たちのことだ。たまには都会の喧騒を逃れて、自然の中で過ごしたいというドクの希望に、僕たちが賛同したのだ。  ドクは都会の大きな病院に勤めている。ドクはドクターからとったニックネームなんだ。病院の仕事は毎日忙しいという。だから、自然の中に身を置いて、のんびり過ごしたいと思ったのだろう。  行先は、山に囲まれたドクの(と言うよりは伯父さんの)別荘。  天気予報では、出発当日は曇り空ということだったのに、見事外れて雨になった。車が市街地を走っているころに雨が降り始め、山へと続く国道を走っているころになると本降りになった。そして、国道を逸れて山間の県道を走っているころには土砂降りになったので、速度を緩めなければならなかった。  おかげで、目的地へは昼過ぎの予定だったのに、昼を大幅に過ぎて到着した。  この辺りはペンション村で、異国にある洋館を模した建物が散在している。絵本から飛び出してきたような可愛い外観の建物も、あちらこちらに見られる。  ドクの別荘はアルプス地方にあるような三角屋根の洋館だ。元はドクの伯父さん夫婦が経営していたペンションだった。その伯父さんたちは三年前に高齢のために引退して、今は娘夫婦が住む都会の賃貸マンションで暮らしている。   閉店したペンションの方は売りに出しているのだが、なかなか買い手が現れない。だから、時々伯父さんたち家族やドクの家族が別荘として使っているのだ。  車を別荘の前に停車させて外に出ると、僕たちは横殴りの雨を受けた。それから、ぬかるみの中、玄関まで歩かなければならなかった。  その晩は、皆疲れたのだろう、夕食後は早々にそれぞれ自分の寝室に引き上げた。  そして今日の朝だ。何時まで経ってもリョウが食堂にやって来ないのだ。
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