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(対象、捕捉…)
私は始末屋。
金さえ貰えれば、誰であろうと例外なく消すのが生業。
(恨みは一切ないが、悪いね)
───ザク…ッ
何気ない偶然を粧い、人通りのない夜道ですれ違いざまに「対象」の脇腹をくり貫く。
「───…っ」
声もなくよろけながら、スローモーションのごとくパタリと倒れた華奢な女は、焦点の合わない目で虚空を見ていた。
ゆるゆると、それでいて止めどなく流れ出る命は「対象」の死を示していた。
(ん?)
散乱した鞄から落ちたらしいパスケースの定期券に刻まれていた名前を見た私の脳裏に、会社員時代の後輩の顔が過ぎる。
(ああ、そういうこと。どうりで見覚えがあるワケだ)
いつもなら「対象」には干渉しないのだけど…そいつは他人の彼氏を節操なく略奪するので有名で、それはもう…同期はもちろん先輩社員からもえらく嫌悪されていたのだ。
(勘ぐる気はないが、依頼人は多分その誰かだろうな。アンタが消された理由は、自業自得…ってね)
既に「掃除屋」が痕跡諸々を消去しているだろうから、あとは丑三つ時の断崖からコイツを海に蹴落とすだけ。
余談だが、この海は潮流の関係で死体が上がらない。
ウン十億もいる人間の中には、コイツみたいな他人のモノを略奪するのが生き甲斐な害悪が少なからず存在する。
(さあて、次の依頼はどんな仕事かね?)
ドプン!とひとしきりの水音が止んだあとで、私はひっそりと溜息を吐いた。
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