笑み花

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 コの字のカウンターの丸椅子に腰かけて美味しそうに食べて笑う姿を見るのが一番嬉しいとき。 「あのぉー」  まち子さんのお母さんが立ち上がり、僕を見て話しかけようか迷っている。いづみは全てを察して。 「説明不足で申し訳ありません。今そちらに伺います」  ほぉらとバシッと背中を軽く叩かれた。ウフフと和やかな笑い声が店の中で響いている。僕は痛くもない背中を擦りながら、テーブル席へと走っていく。 * 「お金の心配をされていますよね?払えるときに月五百円を頂くシステムになってまして」 「払えないって嘘ついて逃げていく人もいるでしょう?」  小さく頷く僕。食い逃げされた回数は数知れない。それでも、甘いと言われようが、いずれまた来ると信じて待ち続けている。 「ほんと人が良すぎて困りますよ。月に一回五百円払えば、食べ放題なんて」  いづみが嫌そうでもない声でそう言い笑う。笑み花だけでは食べていけずバイトを掛け持ちしていることは秘密。 「美味しかったよ。ありがとうお姉さん、小湊お兄さん」  まち子さんの頬にケチャップライスがついている。ハンバーグも唐揚げも、エビフライの尻尾まできれいに食べてくれた。  玉ねぎを控えめにしたじゃがいもゴロゴロポテトサラダも美味しいと言ってくれて、ニコニコの笑顔を咲かせて、完食したプレート皿を見ている。 「どういたしまして」 「よかったらまた来てね」  この笑顔を見るためなら、僕らはずっと営業を続けていく。  それが、僕らの生き甲斐だから  いづみと僕は、まち子さんとお母さんが、あの時の僕のように米粒を掬いながら笑うのを微笑みながら見届けていた。  親子が帰るときには、二人でコの字のカウンターを出て。 「いってらっしゃい」  僕らは店内の入り口、外まで見送る。おかえりとまた言いたいから、見送るときはいってらっしゃいで。 おわり
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