7人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
プロローグ
ぐぅぅぅとお腹を抱えている子供を見ると、僕はいてもたってもいられずに声をかけてしまう。
「お腹空いたんでしょ?」
「・・・・・」
いきなり声をかけられて戸惑っているのが、揺れる瞳でわかる。
保護者の躾がしっかりしていて、怪しい大人に声をかけられても話したりしない子。
ぐぅぅぅ
お腹は空いたと正直に返事をしてくれている。細く白い手をお腹に抱えた少女は顔を俯かせている。
「いきなり声をかけてごめんな。僕はこの通りを一本曲がったところにあるお店をやっている小湊です」
少女に一枚の名刺を手渡す。僕の苗字である小湊とお店の名前が書かれているのを少女が見ているのがわかる。そして誰にでも読めるようにひらがなで書いた箇所に少女の視線が留まる。
「こども、ぜろえん」
「うん。だから、よかったら来てね」
本当は今すぐにでも案内してあげたい。でも、僕が育った時代とは変わっているから無理強いはしない。
伏せ目がちだった少女の視線が上へと向けられて、僕が肩に抱えている食材をじっと見ている。
ぐぅぅぅ
また少女のお腹が盛大に鳴って、顔を赤くしていく少女はか細い声で訊ねた。
「ママは、お金とられるの?わたしもお腹空いてるけど、ママのほうがもっと空いているの。いつも、わたしに食べなさいってママのぶん・・・」
ポロポロと涙が溢れていく。少女の家庭環境は知らないけれど、母親思いの優しい子だと言うことはわかる。古着の袖で涙を拭いながら、少女は言う。
「わたしだけがお腹いっぱいになったらママがかわいそうだから」
ズキンと胸が痛む。ランドセルも誰かから貰ったものなのだろう。真っ赤な赤が使いふるされて一部分が剥がれている。
「お母さんが帰ってきたら店に顔を見せて」
親子を救いたい一心でかけた言葉に泣き笑いながら少女は頷いてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!