《3》

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《3》

定期的に新製品についての企画会議が行われる。 企画会議といっても、畏まったものじゃなくて、お菓子を摘まみながらのお茶飲みという、緩~いもの。 「そろそろ新製品出したいんだけど、どんなものがいいかな?誰か何か良いアイデアない?」 主任の言葉にわざとらしく「うーん…」と唸り声を挙げたのはこの場で唯一の男性社員の笹山さん。 腕を組んで考えるフリを決め込む年長者の松井さんの隣で中堅社員の細谷さんがボールペンを回している。 何か良いアイデアは?と問われても、すぐには閃かないもので…… 画期的な良案を探しつつ、他社の新発売のお菓子に手を伸ばし、皆の出方を窺う。 と、私の隣に座る人物が僅かに身動いだ。 「あの、私から良いですか?」 控えめに挙手をしたのは、最年少で入社一年に満たない今時女子の夏川さん。 私を含めた5人分の視線を浴びて一旦は萎縮したものの、すぐに彼女は背筋を伸ばした。 「日本酒を使った製品なんてどうでしょうか?」 若い彼女の口から“日本酒”という単語が飛び出した事に驚く一同に対し、意外にも主任が食い付きをみせる。 「へぇ……日本酒。どうしてまた日本酒が良いと思ったの?」 それに乗っかる形で細谷さんが口を開く。 「夏川、アンタ酒は好きだけど日本酒だけは飲めないって言ってたじゃん。どういう風の吹き回し?」 噂ではかなりの酒豪と名高い夏川さんだけれど、日本酒は専門外らしい。 となると、尚更彼女から日本酒という言葉が出たのが不思議でならない。
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