《8》

5/14
前へ
/74ページ
次へ
「お付き合いして頂けませんか?朝比奈さんの事をもっと知りたいです」 まだほんの数回……片手で数えられる程しか会っていない。 しかも仕事上だけの付き合いだ。 それでも私の中での彼の印象はとても良い。 見た目の清潔感や誠実そうな雰囲気、仕事に向ける真摯な態度はどれも魅力的だと思う。 実際、彼から思いを打ち明けられて嬉しいと感じる自分がいる。 だけど。 「ありがとうございます」 苦い記憶が私を臆病にさせる。 「お気持ちは大変嬉しいのですが、今は誰ともお付き合いするつもりはありません」 親跡さんの目をまともに見れなかった。 「失礼します。お待たせ致しました。フカヒレの姿煮です」 ここで間が悪い事に、フカヒレが運ばれてきた。 ドンと大皿に盛り付けられた大きなヒレ。 細やかな繊維から成り立っているソレは、トロミのあるスープを纏って艶を放っている。 微妙な空気を打破するように親跡さんが明るく言う。 「冷めない内に頂きましょうか?」
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加