《9》

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「あの、先日はご馳走様でした。あと沢山のサンプルをありがとうございます。職場の皆と試飲し―――…んっ…」 言葉の途中で親跡さんの大きな手が私の口を塞ぐ。 「今日は仕事の話はナシですよ?」 ついさっき聞いたばかりの台詞を繰り返されてハッとする。 「………すみません…」 「いえ、行きましょうか?」 親跡さんに促されて歩き始めてみたけれど、これからどこへ向かうのかは分かっていない。 ただ、親跡さんの口角が引き上がった横顔から、彼が私との外出を喜んでいるらしい事は分かる。 「今日はお時間頂けて嬉しいです」 「あ、いえ…どうせ暇を持て余したいつもの休日を過ごしていただろうから、お声掛け頂けて嬉しいです」 「ははっ、仮に社交辞令だとしても気分が上がります」 歩きながら時折甘い顔でこちらを見てくる親跡さん。 こうまで露骨だと、照れを通り越して居心地が悪いというか…… ありがたい事なんだけれど。
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