《4》

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会社の門を出てから、夏川さんと自宅方向とは逆方向へと向かう。 どこへ飲みに行くのだろうと思いながら歩く私の隣で、夏川さんがスマホを操作している。 歩きスマホは危ないよ……と思いながら、行き交う人にぶつからないよう彼女の代わりに周囲を警戒する。 「朝比奈さんって、私と同じく日本酒得意じゃないですよね?」 「ん、まぁ……基本お子ちゃまだから、甘いお酒くらいしか飲めないし…」 「そういう人にこそ、“ちかあと”のお酒をオススメします。是非朝比奈さんにも飲んで貰いたいんですよ」 「“ちかあと”かぁ……夏川さんの話を聞いている内に興味が湧いてきたけど、私でも楽しめるかな?」 「きっとすぐに虜になりますよ。私が保証します」 夏川さんは、何やらアプリで地図を開いているらしく、周りの様子とスマホを交互に見比べている。 「えっと、もう少し先を左に曲がって……突き当たりを右……」 「どこへ向かってるの?私も一緒に探そっか?」 「あ、じゃあお願いします。“縁”(えにし)って店なんですけど…」 二人で歩く事15分。 夏川さん目的の店に到着した。 “縁”と書かれた提灯を見上げて、溜め息が一つ。 黒い外壁に足元は涼しげな石畳。 無駄なく植えられた木々が優美に舞い、柔らかな雰囲気を醸し出している。 古臭くなく、かといって近代的でもない美しい佇まいのその店は、和モダンという言葉が当てはまるのだろうか。 「ちょっと高そうなお店じゃない?」 「うーん……ネットで見る限り、リーズナブルな値段設定でしたけど、物による感じですかね?」 やや緊張気味に格子戸を開けてすぐ現れたのは、これまた美しい藍染の暖簾。 暖簾を潜りながら足を踏み入れた店内は、外観と同じく落ち着いた雰囲気が漂っていて、そこはまるで外界から切り離された異空間のように思える。
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