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「ダナ、夜遅くにすまない。話したいことがあるんだが、時間をもらえるだろうか」 「ええ、もちろん構わないわ」  改まった様子で自分のことを呼び出したサリバンの姿を見て、ダナは胸を高鳴らせていた。長い間恋人同士として暮らしていたが、ようやく求婚をする覚悟ができたということだろうか。笑顔がこぼれそうになるのをこらえながら、何も気が付いていませんよという雰囲気で男の前の椅子に腰かけた。 「ダナ、君と過ごして何年になるだろうか。俺との暮らしで、君は幸せを感じてくれただろうか」 「もちろんよ。あなたに出会えたことは、人生で一番の幸運よ。あなたに出会えて、私は本当に幸せ」 「今なら空だって飛べる?」 「ふふふ、そうね。夢みたいな奇跡だって起こせそうな気がするわ」  優しく左手を取られ、ダナは口角を上げる。サリバンは、ダナの薬指に指輪をはめてくれるのだろうか。ところが、彼から指輪が差し出されることはなかった。それどころか、彼はダナの左手に唇を押し当てると、そのまま額(ぬか)づいた。ずいぶんと長い間見ていなかった、けれど脳裏に刻まれた懐かしい動きに、さっとダナは顔を青ざめさせる。 「聖女ダナ、代償は既に捧げた。俺の願いを叶えてほしい」 (ああ、あなたも結局私を利用したかっただけなのね。みんな、同じ。みんな、嘘つきばっかりだわ)  愛し、愛されていると思っていた恋人からの残酷な言葉。信じたくないダナの目から涙があふれ、頬を伝い真珠のように転がり落ちていった。
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