手を繋ぎたい

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手を繋ぎたい

未だに手を繋ぐこともできていない俺は、教室から校庭へ愛を叫ぶのがせいぜいで。 手汗が臭いと言われるんじゃないかとか、力強すぎと言われるんじゃないかとか、どのタイミングで手を繋げばいいのかとか。 書店に行って隅々まで探したが、『手の繋ぎ方』という本は売ってなかった。書店員に訊ねたら笑われた。その人は店内を散歩するように歩く幼稚園児らしき男児と女児を視線で示し、『あの子たちに訊いてみたらどうです?』と言った。幼稚園児二人は仲良く手を繋いでいた。近頃の若いモンは⋯、と愚痴る老人の気持ちが分かった気がした。 手を繋ぐというのは、異性同士が肌を合わすの意味だから、性交同意書が必要になるんだと思う。 あくまでも美梅ちゃん有利に働くように、俺は加害者の立場で、法律や条例に則った同意書を作ってから彼女に手を繋がせてくださいと頼む。おそらく、これがもっとも安全で、彼女を守りたい誠意が伝わるものではないかと思うのだ。 今ここで美梅ちゃんを抱きしめてしまえば、俺はただちに出頭せねばならない。とすると、必然的に彼女を犯罪者の内縁者に仕立てあげてしまう。それはできない。だから俺は迸る愛を叫ぶしかないのだ。教室の窓から、校庭に向けて大声で。 「美梅ちゃあああ──んっ!!」
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