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第21話 自己責任?
視力には異常がない。冷却シートを目の周囲に貼り付けて眠った穂波だったが、翌朝も状態はあまり変わっていなかった。過去の経験上も、自然治癒には時間がかかる。いつもより大き目のサングラスをした穂波は、研究室の人見教授と文美の前でそのサングラスを外した。
「え?」
教授は驚き、文美は口に手を当てた。色白美人が、妖怪のようになっている。
「以前にもこう言うことはありましたから自然に治るとは思いますが、それまでフィールドワークは参加しなくていいでしょうか? 申し訳ありません」
「い、いや、それ羽後さんのせいじゃないよ。織部さん、昨日のMRって連絡つくか? ちゃんと言った方がいい」
「わ、判りました」
珍しく文美も動揺した。
+++
その日の夕方、『ごはん屋もみじ』でも穂波は香雪に正直に顔を見せた。
「ど、どうしたの? え?」
「あの、以前に来られた薬品会社の方が、新しいお薬があるから試したらって言って下さって、試したらこうなったんです」
「えー? それって薬品事故じゃないの?」
「日焼け止めを忘れたりしたら、こんな感じになるので経験はあるんですけど、今回はちょっと酷いかな?って。それで見た目も悪いですから、お店では大き目のマスクとバンダナを目深に巻かせて頂いていいでしょうか? お客さまも怖がられると思うので、なるべく目の周囲を隠したいのです」
香雪は何も言えなかった。美人さんなのに、こんなお化けみたいにされて…。
傍らで見ていた夏帆は、一瞬怯んだが、すぐに気を持ち直した。中身はお化けじゃない。
「お薬を試そうって思ったのは穂波さんなんでしょ? それって自己責任じゃん」
「こら夏帆、そんな言い方しないの。お薬の会社の人が大丈夫って言ったから穂波ちゃんだって試したのよ」
「だって、タダでしょ? タダより怖いものはないって」
「夏帆ちゃん、その通りよ。私が悪いの。迂闊に乗ったから」
そう言って穂波は微笑んだが、その笑顔に夏帆はまた怯んだ。
「こっわーっ」
言い捨てて夏帆は2階へと駈けて上がる。しかし理人は違った。
「ひでぇよ! そいつ、オレがとっちめる! あのチャラい奴だろ? オレが成敗する!」
「理人も余計なことしないし言わないの。あんたの憧れのお姉さんだから無理ないとは思うけど、誰も予想は出来なかったんだから、どうやって早く元の美人さんに戻ってもらうかを考える方が大事でしょ」
「そうだけど。だけど、一発殴らないと気が済まない」
穂波はまた微笑んだ。そんな風に私のことを思ってくれる男の子って初めてかも。
「理人君、私、大丈夫だから。変身に失敗した戦隊ヒーローみたいだけどね」
「う」
理人は拳を握り締めた。
+++
その日の夜、
ガラガラガラッ!!
「申し訳ありません!!」
可夢偉が『ごはん屋もみじ』に飛び込んで来た。
「穂波さん、ほんっとに、本当に、心から申し訳ありません。スーパー美人の穂波さんの顔を傷つけたなんて、全く申し開き出来ません!この通りです」
いきなり穂波の目の前で可夢偉は土下座した。
「ちょ、ちょっと上月さん、止めて下さい。酷い顔ですけど、私の体質のせいですし、お薬塗るって決めたのは私なんで、自己責任なんですよ、だからお顔を上げて下さい」
穂波は慌てた。正座したまま顔を上げた可夢偉は、
「至急対処します! 私がきちんと対応させて頂きます。申し訳ありませんが明日には治療薬をお持ちします。今から会社で手配します。ローレライ薬品の名にかけて、美人さんに戻して見せます! 本当に申し訳ありませんでしたっ!」
そして脱兎のごとく店を飛び出た。穂波は唇を嚙み締めた。
皆さんに辛い思いをさせてしまっている…。私、やっぱ、駄目だな…。
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