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第26話 幽霊騒ぎ
「ゆ、ゆーれい! 出たぁ!」
小太りの中年男が叫んだ。ちょうど香雪は穂波が忘れて行ったバンダナを追いかけて届けようかと店の前に出た時だった。
「お、おい、聞いてくれ、出たんだ、さ、鷺池のところ!」
はぁ? 香雪は小太りの男を睨んだ。何、言ってんの?
「ゆ、幽霊だよ! 真っ白なザンバラ髪でよ、顔が白くて、爛れていて、びしょびしょで、あれは投身自殺の女だよ! 前から出るって噂あったけどよ、ババアって話だったけど結構若かった。ババアと違ってこの世に未練たっぷりなんだよ!」
白い髪、顔も白く、爛れている。んあ? それ、穂波ちゃんじゃないの?
「お、おい! 行くのか?」
香雪は男を振り返った。
「そうよ。心当たりがあるからね」
「め、命日とか、か?」
「バカなこと言うんじゃないよ、とっとと帰りな」
香雪は鷺池の方向へ向かった。池の畔はほぼ真っ暗。微かに森から寝ぼけた鳥のガサガサ音が聞こえる。半月の光は弱弱しく水面を浮かび上がらせている。確かに、ここで今日の穂波ちゃんを見掛けたら、間違えちゃうかもね。
しかし香雪は、まるで本物の幽霊のように消えてしまった穂波を見つけることは出来なかった。そもそも香雪は穂波の自宅の場所を正確には知らなかったのだ。ま、バンダナは明日でもいいと思うけど、びしょびしょってどうしたの? 泣いてたのかな。まさか本当に飛び込んだんじゃないでしょうね。
香雪は穂波の携帯に電話してみた。
『ツー ツー オカケニナッタデンワハ デンパノトドカナイバショニアルカ デンゲンガ・・・』
ふう。ま、こんな一日じゃ穂波ちゃんだって電話に出ようとも思わないわね。そっとしておいてあげよう。
香雪は暗い遊歩道を引き返した。
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