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夢
「……っ!」
目が覚めると全身汗だくだった。薄いパジャマはぐっしょり濡れている。心臓がうるさく、呼吸が浅い。眠りながら泣いていたらしく枕は少し湿っていた。
「あ……、っ……」
体の疲れ具合からして、そう長く眠っていないだろう。
「どうした……?」
背後から大江の声がする。眠ったときと変わらず、まだ抱きしめられたままだった。
大江の話に影響された結果、残忍な夢を見たのだろうが、あまりにリアルだった。
「酷い、夢を見た……」
「どんな?」
大江は半分夢の中にいるのか、ゆったりした話し声は掠れている。
「君の、首が……」
口にできない。浅い呼吸を繰り返していると大江の腕の力が強くなった。寝惚けて加減できないのだろうが、今は痛いくらいの力強さに安心する。
「夢だ」
「ああ……」
「まだ起きる時間じゃないだろ。寝ろ」
また目を瞑ったら同じ夢を見るかもしれない。大江の呼吸を感じながら、大丈夫だ、ただの夢だと自分に言い聞かせる。
どうしてこんなに胸がざわつくのか。
蓮介はベッドを抜け、金庫からカラクリ箱を出した。
夢の中で陰陽師は『晴親』と呼ばれていた。
宝物殿で聞いた話に夢が影響を受けただけだろうが、鬼の顔が大江だったせいで現実と非現実が混じって、まるで現実に起きたことのようで今もまだ手が震えている。おまけに陰陽師に感情移入しすぎて、今すぐカラクリ箱を開封してやりたい衝動に駆られている。
何かに取り憑かれでもしたように、箱を開けようと勝手に手が動く。
カタッ。
「え……」
仕掛けの外れた音がして我に返った。
――こんなにも簡単に開くものなのか?
中に何も入っていないことはわかっているが、このまま開けてやりたい。
今なら大江も眠っている。蓮介を抱えた寝相のまま、ベッドで寝息を立てている。
「っ、盗品かもしれないのに何を……」
蓮介は理性で仕掛けを戻し、自分から遠ざけるよう箱を金庫に戻した。
「頭を冷やそう……」
風呂場へ逃げ込むようにシャワーを浴びた。今が夏でよかった。今なら冷水を浴びても風邪は引かない。
夢に影響されて箱を開けようとした自分が信じられなかった。
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