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七時のアラームを止めた。予報通り今日は快晴のようで、遮光カーテンの隙間から明るい朝の気配が差し込んでいる。
結局、蓮介が寝たのは外も明るくなりかけた四時過ぎだった。冷たいシャワーを浴びたら寝つけなくなってしまい、夢や大江のことを考えていた。今も体は重いが、頭は覚醒していて二度寝できる感じではない。
「……大江くん?」
先に起きたのだろうか。ベッドにも部屋にも大江の姿はなかった。
浴室からプラスチックの何かが落ちるような音が聞こえ、大江がカップを落としたのかと覗いたが、そこには誰もいなかった。地震があったわけでも、風が吹いたわけもないのに、歯ブラシを立てていたプラスチックカップが洗面ボウルに落ちて転がっていた。
――コンビニにでも行ったのか?
しかし、部屋の中をよく見れば、一人で宿泊していたかと思うほど大江の気配が残っていない。
「……、箱は……」
疑いたくない。疑いたくはないが、金庫だけは確かめておかないといけない。
金庫の前に膝をつき、蓮介は愕然とした。確かに入れたはずのカラクリ箱が、二つともなくなっていた。
着替えてロビーに降りたが、探しても大江の姿はなかった。
「すみません、髪の明るい……少しピンクみがかった髪の、背の高い男性は通りませんでしたか?」
フロントの女性に話しかける。女性は隣の男性に確認し、男性の方が思い出してくれた。
「四時過ぎでしょうか、確かにお見かけしました。当ホテルは朝五時までエントランスを施錠しておりまして、ご出発されたいとのことで、私がお開けしましたので」
「どこへ行くか言っていませんでしたか?」
「いえ、私には」
「そうですか……」
四時過ぎということは蓮介が寝ついてすぐ出ていったということだ。今から追ったところで追いつかないし、行き先も見当がつかない。
「お客さま、大丈夫ですか?」
「申し訳ない……、水をいただいても?」
「すぐにお持ちします」
ロビーのソファーに座り、受け取った冷たいペットボトルを額に押しあてた。
肺の中の空気をすべて吐き出し、限界が来たところで慌てて息を吸う。次に吐いた息は震えていた。
大江の目当ては最初からカラクリ箱だった。わかっていたはずなのに、行動を共にするうちに大江を信じたいあまり警戒を怠った。
うまく蓋を開けられず、ペットボトルが大理石の床を転がっていく。自分が今、カラクリ箱がなくなって途方に暮れているのか、大江に箱を盗まれてショックを受けているのかわからない。
「きついな……」
ひとしきり考え、ようやく口に含んだ水はすでに温くなっていた。
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