大江の正体

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大江の正体

 血だらけで街を歩いては目立つ。取り急ぎ四条駅付近にあるラブホテルに入った。あまりの汚れように門前払いを食らうかと心配したが、無人の受付だったためか、祭りで店が盛況なのか、幸運にも引き留められずに済んだ。  部屋に入るなり、大江は風呂に向かおうとした。 「待て! 君、怪我してるんだろう?」 「入らなきゃ部屋を汚す」 「君なぁ! 部屋のことより自分のことを考えてくれ!」  大江の足から折れた骨が覗いているのを見た。それに、頭から血が吹き出していたことも。そんな状態で風呂に入ればまずいことくらい、素人の蓮介でもわかる。  しかし、服を脱いだ大江の足からはもう骨は見えていなかった。肉は抉れているが骨は見えない。 「どういうことだ……?」  いや、そもそも崩壊した鉾の下敷きになったのだ。本来なら自力で歩けることさえおかしい。  頭の方の傷を確かめようと蓮介は上を向いた。 「え……」  唇が重なっていた。上を向いただけで。  呆然としていると、顎を掴まれ口腔に舌を捩じ込まれる。 「んんん……っ!」  キスではない、食われている。  舌で舌を絡めとられ、逃げようとすると強く舌を吸われて咽る。口端から漏れた唾液さえ、もったいないと言い出しかねない様子で舐めとられた。  唇を解放されたあと、蓮介は信じられない気持ちで大江を見上げた。 「これくらいの血、これで止まる」  そう言い切った大江の視線の先――先ほどまで肉が抉れていた脚には新しい皮膚ができていた。 「俺は、夢でも見てるのか……」 「あんた、自分の目で見たものも信じないのか? 俺は陰陽師・安倍晴親の式神だった。あんたが好きな鬼だ」  大江はそう言うと、立ち尽くす蓮介を置いて浴室に入っていった。 「自分の目って……」  中からシャワーの音が聞こえてきて、少しだけ冷静になる。しかし、見たものを信じるなら、大江はどう考えても人間ではない。 「鬼……、いや……」  何度も夢で見ているせいか、鬼だと言われても腑に落ちてしまう。非現実的でありえないのに――。  両親が事故死してから、非現実的なことは頑なに受け入れてこなかった。今ここで認めれば、叔父の言うとおり両親は蓮介が呼び寄せた妖のせいで死んだと認めることになる。  蓮介は床に座り、大江が脱いだジーパンを手繰り寄せた。広げると太腿の部分に大きく穴が開いている。何度思い返しても、大江は間違いなく骨折していた。
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