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「食い足りない」
体を寄せてくるのは青年姿に成長した鬼だ。子鬼の面影はわずかしか残っていないが、明るいところで見ると、光に透けると桃色が混じる茶髪は健在だった。そこから立派な角が二本伸びている。服は着ていない。
「待て待て、搾り取る気か。少し休ませろ。それとも本当に食うつもりか?」
「半妖は人の血肉は食わない。それでは共食いだ」
鬼の手が腰にまわる。
「交わりたいだけだ」
「けど、食えないわけじゃないだろう? 俺としては本当に食ってくれて構わないんだが」
「食ったらいなくなるだろう」
「このままお前の精を受け入れていると、俺も鬼になりそうでな。俺も陰陽師の端くれだ。そうなってはここでの暮らしも続けられまい」
「寝食の心配なら俺が何とかする。腹いっぱい、ここからも下からも食わせてやる。だから、鬼になればいい。ずっと一緒にいられる」
拗ねるような口づけを受け入れながら、「下品なことを言うのはどの口だ」と苦笑する。
鬼を愛すると人でいられなくなる。人のまま鬼を愛しては、いつか置いて逝くことになる。
夢の中だというのに、選びきれない葛藤をリアルに感じた。
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