大江

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大江

 夢に青年姿の鬼が出てくるのは久しぶりだったし、鬼との淫夢を見るのは初めてだった。  早めにセットした目覚ましで起床し、鬼とのことはやはり夢だったと認識する。がっかりしたような、ほっとしたような、据わりの悪さのようなものを覚えた。  昨晩の夢はやけにリアルだった。おかげで鬼への性愛を自覚してしまった。被人食嗜好よりいくらかマシかと考えて、すぐにどっちもどっちだと思い直す。通りで人間に興味が湧かないわけだ。  体が怠く、もう少し寝ていたかったが、喉が渇いてリビングへ移動した。寝る前と打って変わって部屋が暑かった。 「これは……酷い」  昨晩のことはすべて夢だと思っていたが、夢の中にも現実が混ざっていたらしい。  リビングの凄惨な状況に、蓮介は再び肩を落とした。  ベランダの窓ガラスが割れて粉々になっていた。風圧で割れたのか、何かが飛んできて割れたのかはわからない。台風一過。日の出の空を背景に、朝の爽やかな風がカーテンを揺らしながら入ってくる。  ダイニングテーブルの書類が舞う。 「直るまでホテル暮らしだな……」  ガラス片に気をつけながら、できるかぎり書類や本を回収して仕事部屋に押し込んだ。横殴りの雨が入ってきたはずだが、紙が多少湿る程度で済んだのは不幸中の幸いだ。  海外旅行用のキャリーバッグに仕事道具と数日分の衣類、カラクリ箱と札束を詰めて押し込む。  家政婦に部屋の状況について一報入れ、蓮介は早々にタクシーで出勤することにした。蓮介のところへ通う家政婦の腕を考えると、中途半端に片づけはしない方がいい。
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