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白百合を添えて
「弊社を志望した理由をお聞かせください」
そんなものは正直、待遇の良さぐらいだ。けれど、それを言うわけにはいかない。
「御社の社風に惹かれました」
自分の部屋で散々練習してきた台詞。だらしなさの欠片も見せないスーツ。鏡の前で研究した、感じのよい笑顔。面接官も笑顔でうんうんと頷いている。面接は続く。応対は問題なくできた。粗相もないはずだ。受かってくれ。一つでも内定が欲しい。
面接が終わり、電車で2時間かけて帰宅する。大丈夫だと自分に言い聞かせる。PCスキルは申し分ないし、言葉遣いにはいっそう気を遣っている。何より受験戦争に勝ち抜いて現役で入った帝華大学法学部。成績優秀。大丈夫だ。
しかし数日後、受信したメールには「今後のご活躍をお祈りしています」とだけ書かれている。ここもダメだ。寺川 桜はまたしても就職試験に落ちた。もう何社落ちたのかわからない。
就活を始めた頃こそ、桜は自分の志す職種で応募をしていた。しかしそれらが全てダメになると、職種にこだわらずひたすら応募して面接を受けるばかりになっていた。桜は焦っていた。早く就職先を決めなければ。早く安定した生活を手に入れなければ。これが数ヶ月も続いて、桜は疲れてしまった。その時、桜はふと求人サイトの中で、「人に寄り添える方を探しています」という文言を見つけた。ぱっと見ではなんの会社かわからない。「株式会社蒼月 あなたの優しさを必要としています」とトップには書いてある。気になった桜はページを開いた。
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