白百合を添えて

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 桜は応募すべきか迷った。いくら内定が欲しくても、こんなわけのわからない会社に応募するのは怖かった。危ないことに巻き込まれるのは嫌だ。しかし、桜は就活で疲れきっていた。早く内定が欲しい。それに、この会社、実際は見たことがないからわからないが、なんの取り柄もない自分を受け入れてくれる気がした。もしも内定がもらえたとしたら万々歳。危ないところならば辞退すればいい。そう思い、桜は応募ボタンを押した。  書類審査を通り、数日後、来社面接が行われることになった。中央公園前のビル。外に広告らしきものも何もなく、ただ「株式会社 蒼月」という表札があるだけだった。分厚いガラス扉を開ける。受付の女性が、「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」と言った。 「いえ、面接で参りました。寺川です」  受付の方に名乗ったところで、左奥の部屋から端正な顔立ちの男性が出てきた。 「寺川様ですね。お待ちしておりました」  男性は左奥の部屋を手で示して誘導する。 「呉野(くれの)と申します。どうぞこちらへ」  オフィス内は木目調の天井と床、白い壁の洗練されたデザインになっている。案内された部屋は小さな応接室だが、窮屈さを感じず、リラックスできる雰囲気が漂う。  座るよう勧められたあと、男性から名刺を渡される。同時に、もう1人、黒縁めがねをかけた背の高い男性が入ってきて、お茶を出す。就職の面接試験でお茶を出されたのは初めてで、桜は驚いた。 「改めまして、今回面接を担当いたします呉野 裕助(ゆうすけ)と申します。今回は弊社の求人にご応募いただきありがとうございます」  桜は渡された名刺を見る。彼の職業は「エンディング・コンサルタント」。ずいぶん変わった肩書きだ。 「最近できたばかりの会社でして。求人をご覧になった際、正直どのような仕事か想像がつかなかったのではありませんか?」 「ええ、まあ……」  桜は正直に答える。呉野は笑った。 「では、少し説明しますね」
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