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この仕事は、端的に言えばお客様と一緒に、人生の終わり方について考える仕事です。私たちの職業である「終飾士」とは、お客様が望む最期を実現するために、知識や人脈をもってお客様をサポートする仕事です。まずはお客様のご要望を聞く。そしてお客様の状況によって臨床カウンセラーをお客様と繋ぎ合わせたり、弁護士や司法書士などと連携しながらお客様の大切なものを守っていく。終活のお手伝いですので、業種としては葬儀屋と似たものだと認識していただいて構いません。まだ会社として設立してからは半年程度ですが、全国の様々な年代の方からご依頼をいただいています。
お客様のお悩みはさまざまです。幼い子を1人で育てている方が、自らに何かあった時のために遺言を作成することもあれば、将来に希望を持てず自死を望まれる方もいらっしゃいます。法に抵触するため死を勧めるような真似はしませんが、どんな方でも望む最期を迎えられるようにサポートをします。辛いことも多いこの仕事ですが、お客様の人生に寄り添うことができるスタッフが必要です。この仕事は、社会構造が複雑化し、長い人生の中で大きなストレスを誰もが抱える可能性があるいま、間違いなく需要がある──
桜には考えつきもしないビジネスだった。今まで、死について考えながら生きてきたことがなかった。けれど、確かにそうだ。人生100年とはいうものの、その道はリタイアする人が増えるほど険しくなっている。
「会社が設立されたのは半年ほど前ですが、それより前からプロジェクト自体はあり、私も携わっていました。ですので、きちんと研修ができる環境は整っていますからご安心ください。これといった資格やスキルも必要ないですし、冠婚葬祭に従事した経験がなくても大丈夫。それよりも大切なのは、お客様を思いやる心と、最後まで寄り添う責任感です」
呉野がひととおり説明した後、扉をノックして女性が入ってきた。彼女はこの近辺の私立花由綺高校の制服にカーディガンを羽織っている。
「社長!」
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