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 ギラギラとした殺気を隠す事もせず、彼を睨み見る野性的な容貌の邪鬼、クロード。彼は、約一年前、剣主と剣鍵により消滅寸前まで追い込まれ、まさしく死にかけた。今回の襲撃は、リベンジでもあるのだろう。  対して、その隣にいるのは、華やかな容姿の少女。人の心の弱さにつけいる事に長けた邪鬼、スイと同じ邪気から生まれた妹、エルヴィス。姉妹といっても、彼女達の間には、情のようなものは一切ない。姉が消滅したのは、弱く愚かだから。そう言いきってしまう程、エルヴィスは邪鬼としては、強い力の持ち主でもあった。 「襲撃に最も適しているのは、夕刻。剣主と剣鍵は、生誕の儀に参加している頃合いです。ルカイナの血を確保した後、アシェイラ王都を覆う結界を破壊。我らが女神の子供達を引きつけます。エルヴィスは玉主と玉鍵の相手を、クロードは鏡主と鏡鍵の相手を、私は剣主と剣鍵の相手をする形になります」 「わかった」  彼の返答を聞き、サイレンは満足そうに微笑むと、手にしていた長箱を渡す。 「これが例のものか」 「はい。前に使用した物の改良版ですよ。宝鍵だけでなく、宝主の動きを封じる事も可能でしょう。ルカイナの血を手に入れたと同時に使用して下さい」  六人集結している女神の子供達。そのすべての力を殺いで、そして……。 「その間に、剣鍵の身柄を手に入れます」  邪悪な笑みを浮かべるサイレンに向かい、彼は冷静に尋ねる。 「アシェイラ王都はどうする?」 「クロードとエルヴィスの好きにさせますよ。アシェイラ国民すべてを喰らってもよし、消滅させてもよし、弄んでもよし。まあ、まずは面倒臭いですから、国王と王族関係者を殺す事から始めましょうかね?」  残酷なサイレンの言葉にも関心を示さぬ彼は、小さく頷くと、厚い水晶の壁に守られた少年の姿を見つめた。  肩先で切りそろえられた闇色の髪。白雪の柔肌。伸びやかな細い手足。その姿は、そう見せるようにしているだけで、本当の姿が違う事を、彼は知っていた。  ーリンス……。僕はもう、君とは同じ場所に逝けない。後には戻れないー  それでもいい。  自分はどうなってもいい。  君の魂が、解放されるのなら……………………。 *****  荒廃した、大地。  邪気に覆われた、空。  灼熱の炎。  ーまだやるのかい? そんな脆弱な、人間の身で?ー  邪悪な薄笑いを浮かべながら宙に浮かぶ、黒髪の少年。  その本性は、神。  神……、だったモノ。  邪気の王にして、この世の破壊者。  理の殺戮者。  邪神スノーデューク。  彼の頬笑みは暗黒の闇に包まれていて、本来あるはずの闇の安らぎは一片も感じられない。  すべての、悪の根源。  彼女を悲しませる者。彼女を泣かせる者。 「何度でも挑もう。お前を打ち倒す、その日まで」  自分の隣りでは、彼女より託された鏡を携えたかけがえのない盟友(とも)が、煌く青い瞳を邪神に向けていた。 「俺達は、レイとの約束を必ず守ってみせる!」  目の前では、彼女より託された剣を構えた、何よりも信頼している盟友(とも)が、褐色の瞳で真っ直ぐに邪神を睨みつける。  そして、自分も……。  彼女から託された玉の杖の部分をスライドさせて長杖の形にすると、自分達を虫けらのように見下ろす邪神を見据えた。 「今度こそ、お前を倒す! スノーデューク!」  それと同時に、紫電の色をした邪神の瞳が邪悪に輝き、周囲を覆う炎と邪気が一斉に襲いかかってくる。 「分散するぞ!」  剣を持った盟友(とも)の言葉を合図に、三人は散り散りに駆け回り、邪神の動きを伺う。  ークククク。まるでゴミのようだね。地べたをはいずり回って……。お前達のどこが、姉上はお気に召したのだろう? 僕には全然わからないよー  そう言いながら攻撃をしかける邪神の動きを読みながら、掲げた玉に力を集中させた。  彼女より預かった、力の断片。  掲げた玉を中心に白銀の光が場を満たし、邪気と炎を打ち払う。  ーチッ、生意気なんだよッ! 虫けらの分際で!ー  その反撃に激昂した邪神は、玉を掲げ、力の解放にすべてを費やした自分を指差す。指先から放たれる、膨大な量の濃密な邪気。 「避けろ!」  焦ったような呼び声と共に、盟友(とも)の持つ鏡が白銀の光を放った。 「ぐぅッ」  自分の盾となり、傷ついた彼の身を咄嗟に支える。傷口から吹き出した、熱い血液の感触を手の平に感じた。何度、こんな傷をこの体に負ってきただろうか……。何度、死にかけたか。もう、覚えていない。  絶対的な力の主である邪神が自分達を一気に殺さず、何度も再戦を受けるのは、おそらく脆弱な人間の悪あがきを愉しみ、弄んでいるのだろう。 「でも、僕達は戦う。彼女の願いを叶える為に!」  そう言うと、盟友(とも)の傷口に玉を当てる。邪気は浄化され、傷口は軽く縫合される。だが、これも軽い応急処置でしかない。
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