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キラリと煌く力強い緑色の瞳を見返すと、ミルフィンとハミルは大きく頷いた。
「「はい、姐さん!」」
もう、すぐそこまで、慕わしくも恋しい気配が近付いてきているのがティアラにはわかっていたのだ。
一方のジュリナは、自分の走る速度についてこれなくなっていたワトスンの巨漢を肩に担ぎあげながら、妹の気配のする方向へと走っていた。
(ティア、ティア、ティア、ティア、ティア、ティア!)
頭の中は妹の事でいっぱいである。他の事を考える余裕がない。
「うわあああああああーー、降ろせええええーーーー!!」
それ故に、自分の肩上で情けない悲鳴を上げるワトスンの事など、完全無視状態になっていた。
(な、なんて……情けない)
冷酷無比の凄腕の傭兵と名の知れた自分が、女の腕に軽々と持ち上げられて悲鳴を上げているなんて。ワトスンのプライドはズタズタである。
(ティア、ティア、ティア、ティア、ティア、ティア! ああ、私のティアラ!)
そんなワトスンの心の内など、本気でどうでもいいジュリナは、何度も胸の内で妹に呼びかけながら、必死にひたすら走る。
そして、何度目かの廊下の角を曲がった時。そこに愛おしくも可憐な姿を、ようやくその目にする事が叶った。
「ティアーーーーーーーーッ!」
廊下の先にいる妹に大音量で呼びかけると、担いでいた荷物|(ワトスン)を放り投げる。
「ぐはっ」
粗雑な扱いにワトスンは呻くが、そんな呻き声など、今のジュリナにはまったく聞こえていなかった。
「お姉様ーーーー!」
姉の声を聞いたティアラの動きは素早かった。走って走って、そして、自分の為に大きく広げられた腕の中へと、一目散に飛び込む。他のものは何も見えない。姉のたおやかだがたくましい腕に抱かれた瞬間、ティアラは安堵と歓喜のあまり、涙で前が見えなくなってしまう程だった。
「お姉様。良かった……ご無事で」
「心配かけてすまなかったね、ティア」
すまなさそうに伏せられる深紅の瞳を涙を拭いながら見上げると、ティアラはにっこりと微笑む。
「いえ、わたくしはお姉様の事を信じておりましたもの」
「ティア」
健気な妹の言葉を聞き、ジュリナの瞳も潤みかける。
「ずっと、お前の元に戻りたかったよ」
「お姉様……」
もう二度と離れまいとでもいうように、再び固い抱擁を交わす朱金の姉妹。その様子を見守っていたミルフィンもハミルも、ほっと胸を撫で下ろした。
「本当に、良かったですぅぅぅぅ!」
「もう、泣くんじゃないわよ! 男の子でしょ!?」
「ミ、ミルフィン様だって~~」
ミルフィン達がもらい泣きをしていた時だった。
ドーーーーーーーーーンッッ
遠くから爆発音が響いたのは。
「っ!?」
「きゃあっ!」
爆発の影響で床が揺れ、咄嗟にジュリナは妹を庇った。
「な、何なの!?」
そう叫び、ミルフィンが廊下の窓を開けて、爆発のあった方角を確かめようとする。
「あそこは正面の入口付近だ」
同じように窓から外を確かめていたワトスンが、ミルフィンの隣りで呆然と呟いた。
「え? どなた?」
ワトスンの事を知らないミルフィンもハミルも大きく首を傾げるが、状況は切迫しており、それを説明している暇がなかった。
「レオンハルト」
唇を噛みしめながらそう呟く姉の美貌を見上げながら、ティアラは言った。
「お姉様。レオンハルト様はリュセル様の気配の消失の影響で混乱しております。精神の均衡を欠いている状態ですわ。このままでは、このルーンメッセの街を壊滅させてしまうかもしれません」
「リュセル。あの子は、本当に…………死んだのか?」
弱々しく項垂れるジュリナの顔を見上げ、ティアラは胸元を抑え込み、その不安を打ち消そうとした。
「わたくしにも……リュセル様の気配は、消失したようにしか感じられません。実際に目にした訳ではないですが……、半身の死を、間違えるはずがありませんもの。レオンハルト様のあの様子では、否定…………出来ませんわ」
そう口にした瞬間、大声で泣きたい気持ちに襲われる。誰にも分からなくても、半身にはわかるのだ。気配の消失の、その原因さえも。それは、本能で悟るもの。
間違いであって欲しい。
しかし、リュセルの気配の消失とその後のレオンハルトの混乱が、それが間違えようのない事実である事を示している。
「ふ……っ」
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