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「はいっ、鷹司先生!」
最近気に入っている敬礼のポーズをとって、雅が伊織に向き直った。
肘の角度や指の位置などまだまだ甘いが、なり切ろうとする雅の真剣な眼差しを見ると自然に口許が緩む。
卵を割る手付きも含めて、リビングから京介も僅かに口角を上げて見守っていた。
伊織でさえそうなのだから、京介は目に入れても痛くない程なのだろう。表情の変化があまりない為分かりにくいが、内心デレている事は誰もが知っている。
同じく雅をネコ可愛がりしている神威の様子を伊織が目の端で視認した。
いつもならば、尊大で高慢で横柄な態度の神威だ。雅が上手く割れなかった卵を数えたり、いきなりカウントダウンを始め、雅を焦らせたりとやりたい放題だが、好きな子に意地悪をする小学生の心理行動だと周囲からも認識されている。
神威とのやりとりを何より雅自身も楽しんでいる為、京介は傍観に徹しているのだ。
だが今日の神威はいつもと違っていた。
朱で顔を染め、瞳の奥に色を含んだ火が点っている。だが伊織と視線が絡むと、さっと顔を背けた。
伊織は満足して更に口許を弛めると、何事もなかった様に料理教室を再開した。
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