彼女の秘密

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 仕事を終えて帰り道を歩いている健太(けんた)は緊張している。数年前から交際している信恵(のぶえ)にプロポーズをしようというのだ。一緒に暮らしてきたけど、そろそろ夫婦として歩み始めようと思った。今日の帰り道で、以前から予約していた結婚指輪を買ってきた。これを信恵に見せたい。そして、結婚したい。 「さて、今日だな」  健太は自宅のあるマンションの前にいる。もうすぐ信恵に会える。信恵はいつものように晩ごはんを作って待っているだろう。 「信恵はどんな反応するだろうな」  健太はマンションの部屋に向かって歩き出した。あと少しで自宅だ。とても緊張している。 「今日、告白しよう。そして、結婚するんだ」  健太は自宅のドアの前にやって来た。ドアの向こうには信恵がいるはずだ。いよいよその時が近づいてきた。 「ただいまー」 「おかえりー」  健太が入ると、信恵はいつものように待っていた。それだけで嬉しい。どうしてだろう。 「今日も疲れたでしょう?」 「うん」  信恵は優しそうな表情だ。信恵の顔を見るだけで、気持ちが和らぎ、疲れが取れる。 「今日はカレーよ」 「ありがとう」  健太は喜んだ。今日はカレーライスだ。まるで自分が告白するのを喜んでいるようだ。  手を洗って、ダイニングにやって来た健太は、席に座った。すでに晩ごはんの用意はできている。 「いただきまーす」  健太はカレーを食べ始めた。とてもおいしい。 「おいしい?」 「うん! おいしい!」  信恵は喜んだ。健太の笑顔を見るだけで、とても嬉しい。恋人だからだろうか? 「言ってくれて嬉しいな」  と、健太は真剣な表情になった。いよいよ告白するようだ。 「なぁ信恵」 「どうしたの?」 「話したい事があるんだ」  健太は少し緊張している。本当に言っていいんだろうか? 別れるきっかけにならないだろうか? 「何?」  だが、今は食事中だ。言うのは後にしよう。気まずい雰囲気になって、せっかくのカレーがおいしくなくなるかもしれない。 「もう少ししたら話そう」 「わかったわ」  2人はカレーを黙々と食べている。もう何年もこうだ。そろそろ結婚して、子供が欲しいな。  2人はカレーを食べ終わった。すると、信恵は食器を片付け、洗い出した。健太は信恵の背中を見ている。 「ごちそうさま」  と、そこに健太がやって来た。信恵は少し戸惑った。どうしてここに来るんだろう。いつもはリビングでくつろいでいるのに。 「なぁ信恵、話したい事があるんだけど」 「何?」  信恵は驚いた。何を言おうというんだろう。まさか、プロポーズだろうか? だったら、大歓迎だ。やっと一緒になれるのだから。 「結婚しよう。きっと君を幸せにするから」  だが、信恵は戸惑っている。誰にも言いたくないことがあるような表情だ。どうしたんだろう。 「いいけど、私、秘密があるの。誰にも話さないでね」 「何だよ」  健太は首をかしげた。言えない秘密とは何だろう。どんな事であっても、秘密にするから、言ってほしいな。 「私、人間じゃなくて、タヌキなの」 「えっ!?」  健太は驚いた。まさか、タヌキだったとは。じゃあ、いつも見ている信恵は、人間に化けた姿だったのか。少し戸惑ったが、健太はすぐに元に戻った。目の前にいるのは、信恵なのだから。 「ごめんね、言わなくて。そんな私でもいいの?」 「いいけど」  だが、健太はすんなりと受け入れてくれた。まさか、それでも愛しているんだろうか? プロポーズを認めてくれないのではと思ったが、こんなにもすんなりと受け入れるとは。 「よかった。どうして?」 「なんでって、信恵は信恵だから」  健太は思っている。目の前にいるのは信恵だ。俺は信恵が好きだから、そんなの全く気にしていない。その秘密を、俺は守ってみせるから。 「よかった。じゃあ、その秘密を守ってくれる?」 「いいよ。幸せにするのなら、誰にも話さない」 「ありがとう」  信恵は健太を抱きしめた。一緒にいてくれて、ありがとう。これからもよろしくね。
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