1人が本棚に入れています
本棚に追加
いらない
「あなた、何をするつもりなの」
理子は何も答えず、ただくすりと笑った。『知っているくせに』。そう言っているように見えた。
「……嫌よ。友也くんには何もさせない。友也くんに何かするつもりなら、わたし、あなたを許さない」
「ばかね、恵理。許さないなんてどうするつもり? 私がいなくてひとりで生きていけるとでも思っているの? そんなの無理よ。あなたは私がいなきゃ何もできないんだから。大人しくそこで私の言う通りにすればいいの」
ぞっとした。これまでは安心できる場所だったのに、突然狭い檻の中に感じられた。これからずっと理子の言いなり。友也くんともいられない、理子とふたりだけの生活。逆らうことも自分の意思で動くこともできない。そんな毎日には先など見えない。ただの暗闇だった。
「そんなことない。わたしはわたしよ。理子がいなくても大丈夫だもの」
本当は少し怖かった。ずっと一緒にいて、これからもずっと一緒だと信じて疑わなかった理子。もうひとりのわたしのようなその存在と離れるなんて、本当にわたしはひとりになってしまう。
強がって放った言葉の中の怯えを、理子は見逃さなかった。全てお見通しだと言うように、理子はくすりと笑う。だけどその笑みを受け入れては、わたしは本当に理子から離れられなくなるだろう。精一杯の勇気をもって、わたしは理子に言い放つ。
「本当よ。わたしはもう大丈夫」
くすくすと、理子は笑っている。
駄目だ。これじゃあ理子には勝てない。もっと強くならなければ。理子がいなくても笑えるように。もっと強く、もっと強く。
「嘘じゃない。あなたがいなくてもいい。理子なんて、もういらない」
目をきつく閉じて叫ぶ。
その言葉が耳に届いたとき、私はもうひとりの自分を全力で拒否した。そんなのは初めてのことで後悔するかと思ったが、それより先にすぅっと力が抜けるのを感じた。まるで自分の半分が空に溶けていったようで体がふわりと軽くなった。
最初のコメントを投稿しよう!