施設の男の子

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施設の男の子

 家が火事になり両親が死んでから、わたしと理子は施設で暮らすこととなった。知らない大人、知らない子供の中で、わたしが心を許せるのは理子だけ。大人たちから寄せられる同情も、子供たちから向けられる好奇やからかいの目も、虫唾が走るほどに嫌だった。   「ねぇ、恵理。私があなたを守ってあげる。この先ずっと、あなたの味方は私だけよ」 「分かってるよ、理子。わたしも、理子がいればそれでいい」    わたしは幸せだった。父親に打たれる心配や、母親の冷たい視線のない毎日は、それだけで充分だと思える日々だった。  それでも、施設にはわたしをからかって笑う男の子や、いつもふたりきりでいるわたしと理子を不気味そうに見てくる職員がいた。だけど、わたしたちが施設に入ってから一年ほど経った頃、男の子は公園の脇で血に塗れているのが見つかり、二度と施設に戻ってくることはなかった。殺されたんだとか、いやあれは悲しい事故だったんだとか、たくさんの噂が飛び交う。数日後のお葬式では泣いている人がたくさんいた。可哀想に、まだ小さいのに。そんな言葉の中で、わたしと理子はただ寄り添って立っていた。   「良かったね、恵理。これでもう大丈夫」 「うん、理子。きっとあの子、バチが当たったんだよ」    聞こえてはいなかったろうが、少し離れた位置であの職員がわたしたちを見ていた。
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