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安心
翌日。わたしはうっかり寝坊をしてしまい、慌てて食堂へ向かった。叱られるかなと不貞腐れ、同時にどうして誰も起こしに来なかったのかとかすかな違和感を感じる。しかしその違和感は、大きな異変に取って代わった。
いつもは子供たちは外で遊んでいる時間なのに、食堂に入ると、みんなそこにいた。しかし誰もがこそこそと小さな声で話していて、奇妙なざわつきと静けさが漂っている。
「何かあったのかな」
「……さぁね」
すげなく答える理子に、なんとなくわたしもそれ以上声をかけづらくて適当な席に座って黙り込む。
結局この日は何も分からないまま終わり、事実が明るみに出たのは次の日の朝だった。学校に行く前に子供たちがみんな集められ、前に立った施設長が重い表情で口を開く。
「……悲しいお知らせがあります。昨日、警察の人が来ていましたね。将吾くんが亡くなった原因が長谷川先生だということだそうです。先生は刑務所というところに行くことになりました」
和らげた言い方をしているが、長谷川が将吾を殺したと言っているのは明白だった。ざわつくよりも啜り上げるような泣き声が耳につく。怖いのか悲しいのか知らないが、抱き合って泣く女の子たちもいた。
そのあとも施設長は長々と話していたが、恐らく誰も聞いてなどいなかった。鳴き声と混乱の中、わたしと理子は互いに小さな小さな声で話していた。ほかの誰にも聞こえない、小さな声で。
『ねぇ、恵理。だから言ったでしょう? 大丈夫だって』
『うん、理子。嫌なやつが両方いなくなったね。これで安心だね』
やっぱり理子の言うことは正しい。これでもう、大丈夫だ。
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