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別離
それからわたしと西くんはバイトの時間以外にもたくさんの時間を一緒に過ごすようになった。バイトの後にご飯を食べに行ったり、休みの日には遊園地や動物園にも出かけた。普通なら子供の頃に家族で行ったことがあるであろうそんな場所に、わたしが行ったことはないと言うと、それなら一緒に行こうとすぐさま誘ってくれた。想像するしかなかったその場所は明るくて眩しくて、わたしは涙が出るほど幸せだと思った。幸せってこういうことを言うんだと嬉しく思った。
だけどそんなわたしの幸せは、理子との時間と引き換えのものだった。
「恵理。最近冷たい」
「え、そう?」
この日も友也くんとランチに出かけるべく、朝から念入りにメイクをしているところだった。不貞腐れる理子に戸惑いながらも、わたしは理子の言う事は正しいと自覚していた。
友也くんと近付けば近付くほど、わたしは理子から離れていく。友也くんと過ごす時間が増えるほど、理子と一緒の時間は減っていく。わたしはそのことを自立していっているのだと言い訳をし、見て見ぬ振りをしていた。だって、いつまでも理子に頼りっきりになんていられないのだから、と。
「そうよ。……ねぇ。恵理は私とあの男、どっちが大事なの。私よね? 恵理に必要なのは私。あなたは私がいなきゃ駄目なの。子供の頃からずっと守ってきてあげたんだから」
突然、早口で捲し立てる理子に、わたしは驚きよりも反発を感じた。どっちかなんて比べられるものではないのに。わたしが自分の幸せを見付けたことを、理子も喜んでくれると思っていたのに。わたしはわたしなのに。
「だからあんな男なんていらないでしょう? 私がいればそれでいいじゃない。これからもずっと、私が守ってあげるから」
守る? 守るって何から? 確かに子供の頃は理子がいてくれて嬉しかった、頼もしかった。だけどそれは過去の話。今のわたしはもうひとりで道を歩いていける。
「ありがとう、理子。でももう大丈夫だから。わたし、友也くんが好きなの」
理子に安心してほしくて告げた言葉だった。だけど理子はそれを喜ばなかった。
「……そう。そんなこと言って私を捨てるんだ。ずっと一緒だったのに。あの男がいるから、恵理はもう私がいらないんだ」
無感情に静かに呟く理子に、背筋にひやりとした汗が伝う。
「だったらあの男がいなくなればいいよね。そうなればあなたはまた、私だけの恵理になるよね」
「待って、理子。何を言っているの」
「大丈夫よ。今回もうまくやるから。恵理は何も心配しなくていい」
噛み合わない会話に冷や汗が止まらない。理子は一体何をするつもりなのだろう。一体、何をしてきたのだろう。
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