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雲上のダンサー
天気のいい日だった。
彼は、霧に覆われた都心を見下ろせる高さにいた。
土曜日の朝。
ここから見下ろす通行人達は米粒よりも小さい。
車や電車は蟻や芋虫のように蠢いて見える。
「ワンッ、ツーッ、スリーッ」
高層ビルの屋上の上で、得意のタップダンスを披露する。
観客は誰もいない。
風が吹き抜け、冬が終わる清々しい匂いが鼻腔を刺激する。
亡き祖父に教えてもらった思い出のタップダンス。
彼は少し目を潤ませた後、意を決してジャンプした。
足元の視界が完全に開け、浮遊感を感じる。
鳥になったみたいだ!
こんなに自由な気分だったのだろうか!
眼下には街の景色が迫り、人影もどんどん拡大されていく。
重力による加速が最大になるころには、彼は意識を失っていた。
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