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「……っぅ……」
私の視界には、道路しか見えない。
どうやら、うつ伏せで寝ている様だ。
「あれ? ……私……なんで?」
脳が整理できない。違う、頭の中が整理出来ない。
私、軽い記憶喪失にでもなったのかな?
たしか、共通一次の理数試験が悪くて、大学受験に失敗した。
それで、落ち込みながら下を見ながら歩いていたところ、赤信号で横断歩道を渡った…………。
そうしたら…………そうそう、トラックにクラクションを鳴らされて、慌てて横断歩道を渡ろうと思って走ったら、今度は反対車線を走って来た車に引かれたんだった。
でも生きているってことは、私助かったのかしら?
私は膝の砂を払って起き上がった。
……あれ?
なんか、私の手が小さくなった様な気もする。
それに視界が低くなっているのは……気のせいではない。
そして、胸の大きさも……って、そこは元々なかったか。
そんな事を考えながら、私は改めて辺りを見回した。
周囲にはレンガ造りの建築物が立ち並び、私がいる場所も繁華街の裏道と思しき風景だった。
ただ、どう見ても日本の街並ではない。行った事は無いけれど、パリとかローマとかヨーロッパの景色に似ている気がする。
判然とはしないものの、どうやら私は外国にテレポートしたらしい。
そして、今のところ自分の容姿を見る事は出来ないが、手足を見る限り、多分子供の姿に退行させられているっぽい。
さて、まず手始めにする事は、領事館を探して……パスポートを発行して……もらえるのかしら?
不法入国しても、日本に帰れるのかなぁ。
う~ん。思う所は色々あるけれど、取り合えず、こんな裏路地にいても仕方が無いので、私は表通りに出る事とした。
表通りにでると、私は唖然としてしまった。
そう、なんと表通りには馬車が往来しており、私の知っているエンジンを動力源とした機械はそこには無かったのだ。
あれ? もしかして、私はテレポートじゃなくて、タイムスリップをしてしまったの?
これじゃぁ、パスポートを発行してもらっても、日本は何時代になるのかしら。
……いゃ、それよりも、この時代にパスポートってあるのかな?
そんな事を嘆きながらも、私は表通りを見回した。
奥ゆかしい街並みでも、どうやらガラスは製造されているらしい。
それなりに大きいショーウインドウもある事から、文明は中世の終わりから近代の初めと、勝手に解釈をした。
そんな事を考えながら私は、ショーウインドウを眺めた。
ガラスは若干波打っている事から、機械ではなく手延ばしだ。
そういえば、亡くなったおばあちゃんの家のガラスも、こんなのだったなぁ~と郷愁を覚えながらも、ガラスの中に飾られている男性用スーツに目を送った。
すると、どうにも古めかしいスーツが『今一番のトレンドです』見たいに飾られていた。
私が知る限り、こんなスーツはチャップリンくらいしか着ていないと思う。
それだって、ちゃんと見たことがある訳では無いので、何となくの記憶だ。
しかし、そんな呑気な事を考えていた次の瞬間、私は自分の目を疑った。
驚いたのはショーウインドウのスーツではなく、ショーウインドウに使われているガラスに映った自分の姿にだ。
私の顔はまだ幼く十歳に届かない位だろう。また、髪の色はブロンドと赤毛が混じり、瞳も水色をしていた。
服装に目を動かせば、現在着用している服はとてつもなく見窄らしく、ボロボロのワンピースを身に纏っているのだ。
そして、私はこの姿を見て、あえて考えなかった事を確信した。
そう、この姿は純日本人の私ではない。たぶん転生か、精神の入れ替えか、はたまたそれに似た何かが起こっているのだと。
とりあえず今の私に分かる事は、服装から考えて、どう見ても上流階級の人間では無い事だ。どちらかと云えば、奴隷である確率の方が百倍高い。
そして、当然今の私は無一文だ。
私はこの後、どうやって生きて行けばいいのかしら……。
そんな不安だけが頭に過った。
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