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包をボディバッグの中に放りこんで、バイクに跨った。サイドスタンドを払う。地面を蹴って助走をつける。 石畳の道を走るうちに、タイヤが見えない道を捉えた。 すうっと離陸する。 直後、バイクが不安定になった。うまく姿勢で制御し安定させる。 これができないと、まずスチームバイカーにはなれない。 最初に乗った時は盛大にこけて、先輩に笑われた。 ふと、その先輩との思い出が脳裏を過った。 先輩は僕にとってこの世界の水先案内人でもあり、スチームバイクに乗るきっかけでもあった。 この世界は人と魔法使いが手を取り合って作り上げている。 でも実際にはいろいろと問題も多くて、魔法を使える人が課される制限は多い。 魔法だって万能ではない。とはいえ、魔法を使えない人たちからいくつかの職を奪った結果、『住み分けが大事だ』と当時の首相に言わしめる事態に陥ったことは確かだった。 様々なルールが決まっていく中、いつしか住む場所も自然と別れるようになっていった。 僕は魔力を持たない人たちが預けられる孤児院で育ち、中学校を卒業する頃に魔力を持ってしまった。 最初に感じたのは痛みだった。 今まで見えなかった世界が見えるようになり、頭が、目が、始終痛かった。 僕と接する機会の多かった孤児院の職員が気づき、隔離された。たぶん、人手が足りない中、僕の面倒を見切れなかったのだと思う。 しばらくすると、今まで認識していなかった何かを、一気に知覚できるようになった。ほとんどろくでもないものばかりで、世界全体が(わめ)き散らかしているようで煩かった。 そういった初期症状が治まるにつれ、今度は恐怖に襲われた。 もう、今までの生活には戻れない。 それだけは直感的に理解できた。 今までに何度か魔法使いの悪口を言ったことがある。言わない人なんていないんじゃないかと思う。それが全部自分に返ってくる。僕は彼らの仲間入りをする。 彼らは受け入れてくれるだろうか。叶わなかった場合、僕はどうなるのだろうか。人間が魔法使いのことを本当に受け入れる日なんて、くるはずがないのに。 僕の不安が最高潮に達したその日、部屋の扉がすさまじい音をたてて蹴破られた。 「こんなところに閉じ込められていたのか」 りんと響く声は月に似ていた。 冷たくて優しい、人を傷付けない光。夜の海にゆらゆらゆれてほどけながらも、確かな道を示す光。 実際に現れたのは光ではなくて、銀髪碧眼の小柄な女性だった。 その顔を見て驚いた。 いつのまにかスクールに来なくなった先輩だった。 先輩は周囲をひとにらみしたかと思うと、杖を振るった。僕が知覚していた部屋にいたろくでもないものたちが、ぺいっと吹き飛ばされていく。 それで、先輩も魔法使いなのだとわかった。 その日を境に、僕は孤児院ではなく僻地にある新しい住居へ移ることになった。
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