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* ふっと意識が引き戻される。 気づけば結構飛んでいた。 危ない、と気を引き締める。飛んでいる時に他所事を考えると事故の元だ。だけど、どうしてだろう。今まで封をしていた記憶の蓋をこじ開けたように、沢山の出来事が押し寄せてくる。 あのあと、先輩はどうなったんだっけ。 ついそんなことを考えてしまう。 配送事業は順調だった。 でも、いつからだったろう。 少しずつ、先輩と会話が噛み合わなくなることが増えてきた。それは、先輩がマイペースな性格だからではなくて、その場の状況を把握し損ねることが増えたせいだった。目をすがめてこちらを見ていることも多くなった。 おかしいな、と医者にかかった時には、先輩は魔力の大半を失っていた。 そんなことあるんですか? と僕に詰め寄られた医者が言った。 ──通常、持って生まれた魔力は一生尽きることはありません。ただ、成長過程の途中で魔力が発現した場合、ごく稀にですが突如として全ての魔力を失うことがあります。 その時、先輩と一緒にいたのは僕とリオンだった。リオンは整備士の現場をやめて、ギルドの運営に参加するようになっていた。 魔法が使えないと、この配送事業は務まらない。僕もリオンも最大限支えるからと申し出たが、断られた。 ──魔力を失った人が暮らす村があるんだ。私はそこへ行く。守られていて安全だから。 狼狽(うろた)える僕を他所に、ギルドの譲渡は淡々と進んでいく。 先輩は僕を支えてくれた。今度は、僕が支え返す番なのに。 自分の無力さが歯がゆかった。 先輩がいなくなる。それでも毎日は続いていく。先輩が抜けるぶん、僕がしっかりしなきゃいけないのに。 気がつくと、もしもこうだったら、なんて違う世界線を探している自分がいた。無駄な思考に疲れ果てて毎日が終わるようになっていった。他にすることが沢山あるのに。 こんなことをしていても先輩の助けにはならない。全部自分のためだ。僕は痛いやつだ。どうしてこんなに自分のことしか考えられないんだろう。僕が先に限界を迎えるなんて、悪い冗談でしかないのに。 僕は本当に未熟で、馬鹿で、どうしようもなかった。最低で最悪だった。 だから、ある日、誰よりも辛いはずの先輩に、自ら『先輩を僕の記憶から消してくれ』と頼み込んでいた。 ──弱くてごめんなさい。許してください。 先輩は一つ笑って言った。 ──きみは本当にばかだなぁ。でもいいよ、そこが可愛いから。 先輩は僕には使えない魔法を沢山使うことができて、かろうじてその魔法を使えるくらいの魔力は残されていた。 僕に杖を向けた先輩が見透かしたように笑った。 ──いいよ、と言ったのはね。消したところでいずれ思い出すからさ。私との思い出を抱えて飛べるようになったら、きっと……そうだ、その時には一つ荷物を運んでもらおう。 そうやって、僕は、先輩(あなた)を、僕の記憶の中から消した。
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