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サテライト区に辿り着いた時には、まだ夜明け前だった。 三本杉の丘にバイクで降り立つ。 その木に隠れるように立っていた人影が目に入った。リオンだった。あのあとすぐに発ったのだろう。すぐ近くにスチームバイクがあった。 バイクを眺めつつ、ほんのりと苦言を呈してみる。 「事故ったのに()りないんだから」 「これからはこれまで以上に気を付けて乗るさ。中央の業務と平行して、事故ったところで大丈夫なように安全装置を開発しているし」 「頼もしいね」 笑う僕を見たリオンがくしゃりと顔を歪ませた。 声は随分と唐突だった。 「言わなきゃならないことがある──お前の中からアリシアを消すように、とアリシアを(そそのか)したのは、俺だ」 え、と言葉に詰まった。 「アリシアが魔力の大半を失って以来、お前は憔悴(しょうすい)しきってた。アリシアからお前について相談された時、俺はお前の中からアリシアの記憶が消えればいいと言ったんだ。だから、悪いのは俺だよ」 一瞬、ああ僕は悪くなかったのかも、なんて気持ちがよぎった。 僕が馬鹿なお願いをした時、誰も僕を止めなかった。 (きし)む心がすうっと穏やかになって……でも、思ったより楽にはなれなかった。 僕はもう、散々楽をした後なのだ。 楽だけど苦しくて、苦しいけど楽だった。 情けない自分のまま、何とか口をひらいた。 「リオンは悪くないよ。実際にお願いしたのは僕だから──あのね」 なぜかリオンが身構えた。 僕は言葉を続けた。 「ありがとう。あの日から今までの出来事を覚えていてくれて──僕と周囲との調整をしてくれて」 アリシアが姿を消してから、アリシアのことを話す人はあまりいなかった。古参のギルドメンバーたちはみんな姿を消し、譲渡された先の新しいギルドメンバーたちが沢山入ってきた。彼らは僕やアリシアのことをあまりよく知らず、話を振られたとしても、お互いに『遠い雲の上の存在』という感じで話が合った。そういう新人が沢山いる部署に僕を配属したのはリオンだった。 リオンが驚いたように言った。 「恨んでないのか」 「全然」 リオンはあまり納得していない様子だった。 苦笑して言葉を付け足す。 「僕の中からアリシアを消した理由は、ちゃんと、僕の中にあるから」 僕は、痛みに弱くて生き汚い僕と、これからも一緒にいる。楽になれないまま、ずっと空を飛んでゆく。 ようやく、それでいいんだと思えたから。 ボディバックの荷物を取り出した。 一歩踏み出して、声をかける。 「リオンも一緒に行こうよ」  ああ、と頷いたリオンがやっと笑みを浮かべた。
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