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リオンと並んで三本杉の前に立つ。左から二本目と三本目の杉の間をくぐる。次に一本目と二本目の間を往復する。魔法に守られた隠れ里へ入るには手順が必要なのだ。
何度目かの往復を繰り返した時、僕らは静かな森の中にいた。
目の前にはまっすぐな魔法の道が出現していた。
ここを行けば、サテライト地区の入り口へ辿り着く。
よし、と歩みを進めた瞬間、荷物の梱包がばらっと解けた。
同時に、紙の隙間から光がこぼれた。
夜明けと共に羽化する蝶の蛹が輝いている。羽化を迎えようとしているのだ。
「え? もう夜明け!?」
さっとリオンが周囲に視線を走らせて言った。
「走るぞ!」
頷いた直後、ぴし、ぴし、と手の中から薄い石の割れる音が聞こえた。まずいまずいまずい、と蛹を包み込んだ両手を体の前に掲げて走り出す。
僕を見たリオンが真顔で言った。
「お前、走り方ダサいな」
「うるさいな!?」
あははっ、と明るい笑い声が響く。
ぎゃあぎゃあ言い合いながら走るうちに、森の終わりが見えた。
その、ひらけた場所にアリシアが立っていた。僕らが魔法の道にいるせいで、こちらには気づいていない。
走る、走る、走る。
アリシアの元まであと少し。
ぴしっ、と蛹が手の中で完全に砕けた。
魔法の道のせいで、声が届かないのはわかっていた。
でも、大声で叫んでいた。
「スチームバイク配達です! お届けにあがりました!」
その直後に森を抜けた。
アリシアがこちらを向く。
と、僕の指の隙間からふわり何かが舞い上がった。例の蝶が飛び立ったのだ。足を止めて、光の行方を見守る。
蝶はひらひらと虚空を舞って、アリシアの肩にとまった。
魔力を持たないせいだろう。アリシアの目は一度も蝶を追うことなく、ずっと僕たちを見ていた。
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