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口を開こうとして、言葉が出てこなかった。
結局、僕の中からアリシアを消した理由は何一つとして消えていない。
でも、今、アリシアの前に立てた。弱くても、へなちょこでも、やっと辿り着けたのだ。
だから知りたい。この数年間、アリシアはどうだったのだろう。どんな暮らしをして、誰に出会い、何を想い、いくつ喜びを見つけただろう。
勿論、楽しいことだけではなかったと思う。もし良かったら、迷惑じゃなければ、話を聞かせて欲しい。
そう伝えようとした直前、アリシアの声が響いた。
「遅い!」
「すいません!」
「待ちくたびれたぞ!」
「はい! ……あの」
「何だ」
やりとりは一瞬だった。でも、僕の記憶の中よりも元気で、威勢が良くて、ふてぶてしく健やかなアリシアがそこにいた。
自然と笑みが零れていた。
「ご迷惑でなければ、また、会いに来てもいいですか」
アリシアが笑った。
「勿論だとも。ギルとリオンが揃ってここへ来るのをずっと待っていたんだから」
その言葉に僕はリオンを見た。
「……来てたの?」
「そりゃ来るだろう」
「だよねー!」
あっはっはと笑ったアリシアが、言葉を続けた。
「時間があるなら、今からうちに寄っていく? とっておきの紅茶があるんだ。特に、ギルには話すことが沢山あるし」
「わぁ、何でしょう。気になる」
言った直後、二人がたたみかけるように話してきた。
「急に棒読みになるのやめろ」
「嬉しくないのか?」
むずがゆいような思いが込み上げてくる。
僕を含めこの三人が揃うと、決まってこの二人が、息を合わせたように僕にちょっかいをかけてくるのだった。
僕は声を張り上げた。
「あーもうっ! すいませんでした! 嬉しいに決まってるでしょ!」
僕の声に、二人が笑う。
ひら、とアリシアの肩から蝶が飛び立つ。
辺りが一段と明るさを増す。
朝日が、夜明けの空を焼いている。
【終わり】
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