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役立たずの副侍女長はアラフィフ
「副侍女長のナオに挨拶ですって? 挨拶など、必要ありません。彼女は、勤続年数が長いから副侍女長ではあります。が、ただの役立たずにすぎません。つまり、わたしたち王宮付きの全侍女のお荷物ということです。だから、あなたたちは彼女のことは無視して結構です。今後なにかあれば、わたしか周囲の先輩侍女に尋ねなさい。彼女以外は、優秀な侍女ばかりです。彼女以外は、意識やスキルの高いプロの侍女ばかりなのですから」
侍女長が新人侍女たちにまず話すことがそれである。
「あんなふうにだけはなりたくないわよね。侍女の仕事に打ち込んで、婚期が遅れたり逃したりということはあるけれど」
「それって侍女長のこと? だけど、侍女長は国王や王妃の信任が厚い『スーパー侍女』ですものね」
「そうよ。まだ侍女として立派だったら、たとえ嫁げなかったとしてもまだいいわよ。だけど、彼女はその侍女の仕事さえねぇ」
「ほんと、わたしはああはなりたくないわ」
「そうよね。はやく旦那様をつかまえないと」
「いやだわ。ギラギラして」
侍女たちは、わたしにきこえているのもかまわずそう言って笑っている。
わたしは、四十代も後半。
まだこの大陸に魔王や魔女やドラゴンがいて、勇者や賢者や魔法使いたちが冒険していた時代の平均寿命だと、死んでいたかもしれない年齢。そのあとに起こった「大陸間大戦」では、死んでいてもおかしくない平凡以下のキャラ。
それが、このわたしナオ・ドナルドソン。
だれからも顧みられないぽんこつ侍女。そして、落ちぶれた男爵令嬢。
それがこのわたし。
とはいえそんなわたしでも、重要な役割を任されている。
というか、無理矢理させられている。
この任務に抜擢された理由は、口がかたいから。親族や友人がおらず、孤立しているから。つまり、けっして他言せず、秘密を保持出来るから、にすぎない。
それ以外に理由はない。
その任務とは、いまはもう朽ちるに任せている物見の塔にいるある人の世話をすること。厳密には、その人に一日に一回パンとスープを運び、前日のスープ皿を持ち帰ること。
その任務を任されてから、もうどのくらい経っただろう。
いくつもの季節がすぎ、わたし自身ずいぶんと年齢を重ねた。侍女長の嫌味をやりすごし、若い後輩侍女たちの中傷や嘲笑を右から左に聞き流し、どうにか王宮にいさせてもらっている。
没落男爵令嬢にして、王宮付きの副侍女長。
役立たずのお荷物として、王宮中の人たちのお笑い種として、あるいは「ぜったいになりたくないレディ」としてなんとかやってきた。
そんなある日のことである。
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