裏ストーリー

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裏ストーリー

「どうしたの?そんな顔してちゃって、ホントは俺のことを待ってたんだろ」  図書室の当番を終え、いつもより遅くなった夕刻。帰宅しようと玄関で外履きに履き替えていると突然私に声を掛けて来る者が現れた。  その人物は……このタイミングで一番顔を合わせたくないアイツである。 「なに言ってんのよ、図書室の当番で遅くなっただけよ。それより、あんた彼女はどうしたのよ」 「彼女って、柚乃のことかい?柚乃は先に帰したよ。今日は部活で遅くなるからって伝えてね」 「だったら、早く部活にもどりなよ。こんなところで怠けてないでさ」 「いやぁ、それがそれ程遅くならなくてさぁ、俺も丁度今帰るところなんだよ。せっかく待っててくれたんだから一緒に帰ろうよ」  そう言って、私の腕を取り強引に引き寄せて来る。  誓って私は、彼を待つために敢えて遅くなった訳ではない。図書室当番の後に乱雑になっていた書棚を整理していた為、いつもより少し遅くなっただけなのだ。 「ちょっと待ってよ、何すんのよ」 「そういう割には、身体は抵抗してないみたいだけど?」  そう、こんなに気持ちは抵抗しているのに、身体が言うことを効いてくれない。 (何で?何でなの?? 誰か、誰か、私を何とかしてよ!助けてよ!)  そう心で叫んでも、何故かそれも言葉にならない。  そこで… 「カンカンカン…朝ですよ~!おっはようございま~す、おっはようございま~す…」  枕元のちょと変わった目覚まし時計が、私の起床時間を告げて来た。  危ないところで私はゴングに救われた形となった。危ないと言っても夢での話だけど。  カーテンの隙間から差し込む今朝の日差しは一段と眩しい。きっと外は爽やかな朝なのだろうけど、それとは裏腹に私の気分は悪夢のせいで最悪。頭の中はどんよりとした雲で覆われている。  体が怠い…  私が今朝見た夢は、コンテストに投稿するために私が現在進行形で書き続けている恋愛小説の設定そのままである。  ただ今朝夢で見たのは、私が書いている本筋ではなく、私が書いていない裏で流れているストーリの部分のようなのである。それが夢の中で、意思とは無関係に勝手に作られているのである。  私の書いているストーリはザックリ言うと、内気で人見知りでパッとしない女の子の玲奈(れいな)と、学校一のモテ男なのに硬派な央仁(おうじん)が学園を舞台に繰り広げる、まあ、ハッキリ言ってしまえば残念気味なありきたりの純愛ラブストーリである。  それでも、コンテストの賞に引っ掛かるように少しは見せ場を作ったつもりではある。
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