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さらに次の夜
「ああ、来た来た」
私を呼び出しアイツはそう言う。
「何かようなの?」
「表面上の性格を変えても無駄って言っておこうと思ってさ。これは裏のストーリだから。これ、俺からの助言ね」
呼び出しに何故か乗って来てしまう自分にも驚きだけど、私の書いている小説内でアイツの性格を変えたことを指摘されたことには驚愕である。
「あと、どう書き換えても俺はお前が好きなのは変わらないから」
「ふざけないでよ、柚乃はどうしたの!柚乃のことが好きなんでしょ!」
「柚乃?もちろん好きさ、表のストーリーではね。でも、この裏では君の方が魅力的だよ」
そう言いうと、アイツは私を抱き寄せ、頬ずりをして来る。さらに、彼の唇が私の耳たぶに触れる。
(や、やめてよ、何するのよ!)
心ではそう思うが、言葉にならない。
(逃げてよ、逃げてよ私。どうしたの?どうして逃げないのよ)
身体も言うことを聞いてはくれない。
そこで…
再びゴングに救われる。
「カンカンカン…起きろ、起きろ、ナマエ、ナマエ…」
その音にハッとして素早く上体を起こす私。
カーテンの隙間からは、いつもの朝のような明るさが全く感じられない。
時計を見ると、午前2時22分。眠りについてまだ2時間も経っていない。目覚まし時計の設定タイムを確認すると、今日はちゃんと午前6時半になっている。
だが、確かに目覚まし時計のメッセージが聞こえた気がした。気のせいだったのだろうか?
それに、”ナマエ”と言ってた気もする。
「ナマエ?あっ!」
私は思いついた。
そう、アイツをストーリーから消してしまえば良いのだ。
そこから急いで、私は央仁のフルネーム、入間央仁を宇添俊に変えることに。さらに極力裏ストーリも作れない様にと、細かく行動を制限するようにも書き加える。
因みに変更した名前の由来は、目覚まし時計のベルが傘状になっていて、文字盤には雨に濡れる櫻の絵が描かれているから”宇添”で、目覚ましを止める時に、悲し気に「シュン」と鳴るから、”俊”である。
この作業は、終盤を迎えた小説に取ってはかなり手間の掛かる作業だけど、最早そんなことを言ってはいられない。そんな気持ちなのである。
そして、アイツの名前を変えてから、続けて見ていたあの悪夢は見なくなった。
私は安寧な睡眠を取り戻したことにより小説も快調に進み、投稿も終わらせることが出来た。
後は、結果発表を楽しみに待つだけである。
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