0人が本棚に入れています
本棚に追加
濃密なピンク色に染められた田圃の片隅に
まるで別の花のようにひっそりと咲く白い蓮華草のように
私は何処かに自分の色を置き忘れて来てしまった
それは多分 この世に生まれ出ずる前に
私は知っていた
自分が色を持っていない事を
だから必死に抗っていたのに
私の種子は波間に漂い 風に舞い乍ら
この世に芽吹いてしまった
皆と違う白い花を咲かせてしまった
私は私になりたかっただけなのに
皆は私を責めるように口々にこう言う
「何故あなたには色が無いの?」
「何故みんなと違うの?」
だって
色が無いのが私なのに
それはそんなに悪い事なの?
そう言う私に
皆は尚もにじり寄り
自分達の色を押し付けてくる
その口から容赦無く吐き出した醜い言葉で
私の体を 心を
自分達と同じ嫌らしい色に染め上げようとする
けれど私を育て上げた土壌は
それには馴染めずに化学反応を起こし
真っ黒に錆びてゆく
真っ白だった私の体と心は
赤黒い錆に覆われ
鉄のように固くなってしまう
もう誰にも
私自身にも
この錆び付いた体と心を動かす事は出来ない
そうして私は化石のように
時を止め
感情を 思考を
自分の何もかもを凍て付かせて
終わりが来るのを待つ
ただひたすら
待っている
壊れてしまった心を抱いて―
あの日の白い蓮華草は
今はもう
何処にも無い
(2021年11月23日作の詩)
最初のコメントを投稿しよう!