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「おはよう。よく眠れた?」
翌朝、目を覚ました沙也に優しく声をかけた。
状況が飲み込めずにいる虚ろな目。
取り乱していないことから、ナノマシンが効いていることが分かった。
「僕が誰だか分かる?」
沙也は少し考えてから首を横に振った。
「自分のことは?」
「分からない。知らない」
記憶は消えたが、精神は安定している。
第一関門は突破した。
あとはじっくり沙也をつくり直していくだけだ。
「君の名前は沙也。僕は君の夫の啓介。ここは僕らの家だよ」
「そんなの、覚えてない」
「大丈夫。安心して。ゆっくり思い出していけばいい」
むかしの君を思い出したら、また消してあげる。
僕の手で、何度でも。
僕なしでは生きられない沙也を抱きしめながら、しあわせに暮らすために。
「だって、戦争はもう終わったんだから」
「せんそう?」
そう繰り返した沙也の目が大きく見開かれた。
そして。
「啓ちゃんおかえり! 会いたかった!」
抱きつく沙也の首筋に、迷うことなく注射器を突き刺した。
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