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戦争から戻った僕が沙也と再会したのは、2年前のクリスマスだった。
両足と右腕を失った僕の姿を見て、沙也はひどく取り乱し、その場で鎮静剤を打たれてそれきり病院には来なくなった。
代わりに見舞いに来た佳奈の話によると、沙也は僕と再会した記憶を失い、僕が帰ってくるのを毎日楽しみに待っているのだそうだ。
五体満足の僕が帰ってくる日を。
「沙也は昔から大きなショックを受けると、その出来事をなかったことにしてしまう癖があるんです。啓介さんと出会ってからは精神的に落ち着いていたのですが、今回のことは耐えられなかったようです。本当にすいません」
佳奈はそう言って何度も頭を下げた。
そんな佳奈に僕は、「無理もないです」としか言葉をかけてやれなかった。
実際、自分でも命が助かったのを呪ったくらいだったし、沙也の不安定な一面を知っていたから、僕の身体を正視できないことくらいは想像していた。
とはいえ、記憶ごと消してしまうのは予想外だったし、もう一度沙也と会っても同じことになるのは明白だった。
会わなければ沙也の時間は動き出さないし、会えば巻き戻る。
僕はどうしても沙也の理想の姿で彼女の前に現れないといけないのだと腹をくくった。
それくらい、僕も元の沙也に会いたかったのだ。
身体を元通りに再生するには、莫大な金がかかった。
わずかな財産に国からの手当てと年金、そして可能な限りの借金に、佳奈からの援助を足してようやく右腕が取り戻せるくらいの額だった。
そして残ったのは内臓を売るという選択肢のみ。
沙也には見えないモノがなくなったところで、たいした痛手ではなかった。
沙也を抱きしめて喜ばせる五体さえあれば良いのだから。
金さえあれば臓器だって機械化できる世界で、天然の臓器の方が桁違いに高かったのは思わず失笑したが。
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