戦争はもう終わったんだから

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 1年をかけて身体を再生し、沙也に2度目の再会をしたのもクリスマスだった。  今度は病院ではなく、2人の家に歩いて戻った。 「啓ちゃんおかえり! 会いたかった!」  玄関を開けるなり、沙也が胸に飛び込んできた。  まったく別物の身体になっていることがバレるのではないかと危惧していたが、沙也はまったく気がつかず、キスをして抱き合った。  そして2人でストロベリーパイを食べ、離れ離れだった間のことをたくさん話し、幸せな気持ちで夕飯を食べ、ベッドの上で、僕は彼女を喜ばせてやることができなかった。  機械化の代償なのか、内臓を失ったからなのか、戦争で心が病んでいたのか、理由は分からない。  そんなことよりも、沙也の目があの日の、変わり果てた僕の姿を見たときと同じように大きく見開かれていることに恐怖した。 「啓ちゃんの身体、なんか違う。こんなの啓ちゃんじゃない! 今までの啓ちゃんじゃない!!」  普段以上に鋭くなっていた沙也の直感が、僕の身体の秘密を暴いてしまった。  暴れ出すかと思った沙也は、僕に背を向けて膝を抱いて横たわり、親指をくわえて長い間ぴくりとも動かなかった。  二時間ほど経っただろうか。  沙也がむくりと起き上がり、ベッドの横のくまのぬいぐるみを手に取った。 「啓ちゃん、明日帰ってくるんだって。はやく会いたいな。明日からはずっと一緒だね。だって、戦争はもう終わったんだから」  そうぬいぐるみに話しかける沙也の心に、僕の言葉も温もりも、届くことはなかった。  僕はその場にいないことになっていたのだ。  何が沙也のしあわせになるだろうかと、一晩中考えた。  元の身体でないことをちゃんと伝えるべきだろうか。  それとも、夫婦の営みができないことだけを説明し、ショックを最小限に抑えた方がいいだろうか。  あるいは、僕が沙也の元から去り、僕の帰りを待つ喜びのまま彼女の時間を止めてしまうべきだろうか。  答えが出ないままやってきた朝、沙也は僕の存在に気づかないまま朝食を食べ、身支度をし、嬉しそうにストロベリーパイの材料を買いに出かけた。  その彼女の姿を見て、僕は決めた。  沙也の思い通りのクリスマスになるまで、何度だって同じことをしようと。  今日の僕が、何度彼女の記憶から消されたっていい。  僕はそれくらい、元の沙也を取り戻したかった。  理想の再会を強く願い過ぎた沙也の狂気と同じくらい、僕も狂っていたのかもしれない。
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