戦争はもう終わったんだから

6/6

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「おはよう。よく眠れた?」  翌朝、目を覚ました沙也に優しく声をかけた。  状況が飲み込めずにいる虚ろな目。  取り乱していないことから、ナノマシンが効いていることが分かった。 「僕が誰だか分かる?」  沙也は少し考えてから首を横に振った。 「自分のことは?」 「分からない。知らない」  記憶は消えたが、精神は安定している。  第一関門は突破した。  あとはじっくり沙也をつくり直していくだけだ。 「君の名前は沙也。僕は君の夫の啓介。ここは僕らの家だよ」 「そんなの、覚えてない」 「大丈夫。安心して。ゆっくり思い出していけばいい」  むかしの君を思い出したら、また消してあげる。  僕の手で、何度でも。  僕なしでは生きられない沙也を抱きしめながら、しあわせに暮らすために。 「だって、戦争はもう終わったんだから」 「せんそう?」  そう繰り返した沙也の目が大きく見開かれた。  そして。 「啓ちゃんおかえり! 会いたかった!」  抱きつく沙也の首筋に、迷うことなく注射器を突き刺した。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加