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「啓ちゃんおかえり! 会いたかった!」
玄関を開けるなり、沙也が胸に飛び込んできた。
ドアも閉めずにキスをして抱き合う。
「怪我しなかった? どこも痛くない?」
沙也は僕の身体をさすりながら聞いた。
くすぐったくて思わず笑ってしまう。
「大丈夫だよ」
「本当に? ひどい戦闘だったんでしょ?」
「僕の部隊は接敵せずに済んだから」
「良かった! 怪我しなかったし、人も殺さずに済んだんだね」
「うん。幸運だった」
本当は部隊の半分が死んだし、人もたくさん殺した。
そして、両足と右腕を失って帰ってきて、1年かけて義肢と義腕に適合したのが今の身体だ。
見た目も感触も、動作も触覚もほとんど変わらない、精巧な機械だ。
「啓ちゃんの好きなストロベリーパイ、焼いてあるからね! 夜はローストチキンにピザに、ポテトサラダも作るんだ」
まるでクリスマスのようなメニューだが、彼女の頭の中では今日はクリスマスなのだ。
「楽しみだね。僕も手伝うよ」
「啓ちゃんは休んでて! 戦争から帰ってきたばかりなんだから。それよりも一緒にパイ食べよ! コーヒーでいい?」
そう言ってキッチンに引っ込んでいく沙也。
初夏の風が吹く青空を振り返り、玄関を閉める。
キッチンをのぞくと、冷蔵庫に入りきらない大量の食材が床に積まれていた。
今日の分ではない。
明日も、あさっても、同じ料理を作り続けることを、沙也は心の底では分かっているのだ。
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