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1.見えない少年
「秘密にするって言うのは、どうだろう?」
雪が舞い、陽が落ちていく道路の真ん中に、制服姿の学生が倒れていた。
その少年が身につけている黄色い毛糸のマフラーを見下ろしながら、俺は隣に立つ黒髪の男にそう訊ねた。
医者の服装を全て真っ黒にしたような格好をした黒髪の男は、黒い白衣の裾をはためかせ、メガネの奥から射るような眼差しをこちらに向けた。
「まさか私が見逃せば、生き返れると思っていますか?」
その問いに、俺はニコリと目尻を下げたが、黒髪の男は表情もかえず首を横に振る。
倒れている自分の身体を目の前にしていても、全く実感がわかない。
目を覚ますと、俺はなぜか道路の真ん中で寝ていて、この二十代半ばの見知らぬ黒髪の男が目の前に立っていた。
驚いて起き上がると身体が二つになりギョッとした。
事態が飲み込めない俺をよそに、黒髪の男は左手の腕時計に目を向けた。
「十八時四十二分、覚醒を確認」
「か、覚醒?」
困惑する俺に視線を戻すと、黒髪の男は淡々とした口調でこう告げた。
「大石健太郎さん、貴方はたった今死人となりました。私があの世まで貴方をご案内致します、死神です。はじめまして」
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