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◇
人は死に向かって生きているとよく言うけど、十七歳になったばかりの俺にとって、それはまだ遠い先のことだと思っていた。
だから、一日経っても、黒いリボンを巻いた自分の写真が飾られた祭壇と通夜をみていても、隣に死神が立っていてもこれが現実だとは思えない。
「いま、俺は幽霊?」
隣の死神に顔を向けず、泣いている両親や通夜に来てくれた友人たちを眺めながら俺は訊ねた。
「私たちの世界では「死人」と呼んでいます」
死神が言うには、俺は学校帰りにあの道路で信号無視した車に跳ね飛ばされ、脳挫傷で死んだらしい。
言われてみれば、頭の片隅にそんな記憶の断片があるような気もした。
「まだあれは、読まれていないんですか?」
死神の問いに、俺はわからないふりして首を傾げた。
読んでいないとわかっていて聞くのは、催促だ。
物言いたげな死神の視線に仕方なく、コートのポケットに入れていた黒い手帖を取り出す。
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