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この黒い手帖は、この世に滞在中は持っておくようにと死神から手渡されたもので『死人のパスポート』というらしい。
死人の掟が記載されているらしいが、手帳にびっしり書かれた小さな文字をこの状況で読む気にはなれなかった。
パラパラと手帖のページを捲ってコートのポケットに戻した俺を冷たい目で死神が見る。
「死人のパスポートの滞在期限は、一週間です。ですが、そんな時間をかけず、なるべく早く理解して旅立っていただきたいですね。私の評価にもかかわりますので」
俺は死神に非難の目を向けると、また自分の通夜の参列者の方へ視線を戻した。
このエリートそうな死神の説明によると、どうやら死人になったからといってすぐにあの世へ行けるわけではないそうだ。
死人として覚醒すると一週間この世に滞在する猶予が与えられ、『この世では何もできない存在になった』のだと理解する時間がもうけられる。
理解できていない死人があの世へ旅立つ際に問題を起こすことが多かったため、そういうシステムに百年前からなったのだという。
「急いでいるなら、手伝ってよ」
「人探しですか?」
間髪入れず返ってきた死神の言葉に、俺は少し面食らった。
「気づいてたのかよ」
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