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番外編 モンラン孤児院の院長①
モンラン孤児院の院長の、クリム男爵家のソルテは結婚歴があった。
クリム男爵は野心家で、自分の娘であるソルテを少しでも地位の高い貴族に、嫁がせる為の努力を惜しまなかった。
ソルテは幼少期から、休む間も与えられず、日々厳しい教育を受けてきた。
彼女は精神的に追い詰められ、過食や拒食を繰り返し、次第に肌や髪は潤いもなくなり生気がなかった。
ソルテの見た目を気にした、クリム男爵は彼女の美容にもお金をかけ、表情の無い人形の様な女性を作り上げた。
ソルテの母親も男爵に逆らわなかった。
クリム男爵はソルテの成人の儀を待ちわび、社交界に連れ出したが、外見や礼儀作法など見かけは良いが、目が虚ろで生気のないソルテの婚約者を見つけられずにいた。
18才になったソルテにきた縁談は、年の離れた伯爵の再婚相手だった。
クリム男爵はあまり裕福ではないが、伯爵家という格上の貴族だったので、ソルテを嫁がせる事にした。
年の離れた伯爵は前妻を亡くした後、領地経営も杜撰で、不摂生な生活をしていた。
領地経営を学んでいたソルテは伯爵家を少しずつ立て直していった。
頭の良いソルテの経営手腕に、女だてらにとかおまえは教師のつもりかなどと、伯爵には罵られたが気にしてなかった。そこに感情はなかった。
伯爵は日頃の不摂生もあり流行り病で呆気なく亡くなった。
三年間の結婚生活だったが、伯爵の加齢かソルテの摂食障害なせいか、子どもには恵まれなかった。
跡継ぎがいないのを悲観した伯爵の親戚は、我先にと伯爵家当主の座を争い、ソルテは伯爵家を出ることになった。
伯爵家を出ても実家には帰りたくなかった。
ソルテはラミール教会に立ち寄りお祈りを捧げ、これまでの事をコンセ司祭に打ち明けた。
「ご苦労なさいましたね。もしよろしければ、近々モンラン孤児院の院長が退職されるので、ソルテ様にお願い出来ないでしょうか?」
「わたくし、子どももおりませんし、大丈夫でしょうか?」
「できれば貴女のような方が、子どもたちに読み書きなどを教えてもらえれば、ありがたいのですが」
コンセ司祭の言葉に、ソルテは伯爵に言われた事を思い出した。
『女だてらに何が出来る。教師にでもなったつもりか』
ソルテははっと思い、
「わたくしにやらせて下さい」
と、孤児院の院長を引き受けることにした。
ソルテは孤児院の子どもたちと過ごすうちに、自信の摂食障害を克服していった。
貧困で満足に食事が出来ない子どもを間近にみて、自分の弱さに気づき、少しずつ食事を楽しむことが出来るようになった。
最近よく訪れてくる少女は、家族に愛され大切にされているようで、羨ましかった。
少女は成人し望まぬ結婚をすると聞き、しかも一年後に愛人の子を育てるなんて言葉にならなかった。
その後夫もなくなり、彼女の心労を考えると気の毒で仕方ない。心配だった。
いつしか彼女はモンラン孤児院出身の青年と恋に落ち、ソルテは自分のことのように幸せを祈った。
彼女と青年は結婚しこの地を離れることになった。二人には幸せになって欲しい。
ラミール教会のコンセ司祭は、男手も必要だろうと、ソルテは同世代の男性と孤児院で一緒に働くことになった。
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